プロローグ
チリリリリリリリリリ!
黒電話が目覚ましく鳴り響く。
どうやら今日も依頼が舞い込んだらしい。ここのところ毎日だ。もちろんこの事務所の会計を預かるものとしては依頼が多いのは喜ばしいことなのだが、こうも立て続けだといくらなんでも参ってしまう。それが常人には手に負えないないような奇妙奇天烈な事件ならなおさらだ。まったくもって肩が重い。まあ、もっともそれらは僕が解決するわけではないのだが。
「先生、電話鳴ってますよ」
狭い事務所の中央にある薄汚れた古いソファーに身を投げ出して文庫本を読んでいる女性に声をかける。ぼさぼさの髪で顔は隠れ、服はどんな中古屋でもこれほど着古したものは売らないだろうというほどにぼろぼろだ。一見してホームレスにしか見えないようなこの女の人が、日本屈指の名探偵などと一体誰が信じるだろうか。
「ああ、頼んだ」
「たまには自分で出てくださいよ、まったく」
毎度のやり取りだが、正直先生が自分で出るとは僕も思っていない。ただ、こう言っていちいち釘を刺しておかねば、この人は何でもかんでも僕に押し付けてくるので要注意だ。この間なんか、めんどくさいから君一人で事件を解決してきてくれなんて無茶振りされた。冗談ではない。僕ごときが何とかできるような事件なら、そもそもこんなところに依頼が持ち込まれるわけがない。この先生はそれがわかっているのかいないのか、いつもいつもめんどくさがって何か理由をつけては仕事をさぼろうとする。本当に勘弁してほしいものだ。
けたたましく鳴り響いている黒電話を取ると、一層憂鬱な気分になった。
「はい、こちら対超能力探偵事務所です」
さてさて、今度はどんな難問奇問が待っているやら。いや、その前にどうやって先生をその気にさせるかという難題が、僕には立ちふさがっているのだった。