ごわ
そこにいたのは、意外な相手でした。
トラックです。
全長12メートル。
全幅2メートル50センチ。
全高3メートル80センチ。
フォルムはおなじみの直方体で、前側には運転席があって、荷台を牽引しています。
車体重量は8トンを誇る、鉄のばけものがそこにいました。
トラックはライトをチカチカさせながらしゃべります。
「ほう、まさか貴様もこちらに来ていたとはな」
渋い声ですね。
どうやら、むこうは、ネク太郎を知っているみたいでした。
ですが、ネク太郎にはトラックの知り合いはいません。
中にひとも、のっていないみたいですしね。
あたまがおかしくなって、幻覚がみえてしまっているのでしょうか?
ネク太郎は、目をとじて、自分の頭を殴りました。
正気に戻るかなとおもったのです。
でも、目を開けても、そこにはやっぱり、トラックがいました。
「お、お前はなにものなんだ……」
「我が名はトラック。圧倒的な馬力ですべてを牽引する者だ。我が前では、オークも、エルフも、人間も、ハーフリングも、バードリングも、すべて積み荷でしかない。積載量ある限り、我はこの世のすべてを積みこみ続ける」
言っていることは、よくわかりませんね。
やっぱり、トラックの行動原理は、ひとにはむずかしいみたいです。
「え、えっと、乱暴なことや、どろぼうは、やめるんだ!」
「ふん、有機物風情が我に説教か。偉くなったものだな、脆弱な生物めが! かつては我に轢かれてあっさり死んだくせに!」
「……なんだと?」
「忘れたか! 我は貴様を殺したトラックだ! 貴様の魂をすりつぶした感覚、今でもフロントバンパーに残っているぞ!」
あらあら。
どうやら、因縁の相手だったみたいですね。
ネク太郎の見た目は、前世とすっかり違っていますけど、トラックは、きちんと、みわけがつくみたいでした。
ひとにはない感覚が、あるのでしょう。
「と、とにかく……悪いことを続けるなら、俺がここで、お前を倒す」
「やってみろ! ギアチェンジもできぬ不完全なその肉体で!」
トラックがうなりをあげます。
ネク太郎も、いろいろありましたが、とにかく戦うためにテンションをあげます。
トラックと、自称エルフのオーク。
2つのモンスターは、たっぷりとにらみあいます。
そして、いっきにはしりだしました。
たいあたりです。
おたがいのからだがぶつかって、すごい音が、島中にひびきわたりました。
トラックに正面からぶつかって無事なのに、まだ自分をエルフだと思っているのが、ネク太郎のすごいところですね。
でも、屈強なオークのからだだって、トラックよりは、よわいみたいです。
じりじりと、おしこまれます。
「四輪走行の我に、二足歩行のヒト風情が勝てる道理はない!」
トラックはアクセルをふみます。
タイヤはなんどか空転しつつも、確実に、ネク太郎をおしのけようと進みます。
ちからでは、勝てそうもないですね。
ネク太郎は、おしあいをやめて、おおきく横にとびました。
そして、トラックのバックミラーをつかんで、運転席にとりつきます。
「ぬうッ!? そこをつかむな! もしとれて後方確認ができなくなったらどうするつもりだ!」
ヒトを轢いたトラックでも、後方の安全は、きにするみたいですね。
言われたからということではないですけど、ネク太郎はバックミラーから手をはなします。
次につかんだのは、運転席の上の、平らになっているぶぶんでした。
握力で、金属製のトラックの運転席をへこませて、しがみついています。
「我のボディの傷をつけるな! 次の車検で事故車両だと思われたらどうする!?」
傷がついていなくても、ひとを轢いているので、事故車両ですね。
ネク太郎は片手で運転席上部をつかんだまま、空いている拳を、ふりかぶりました。
そして、ぱんちで、ガラスをわります。
「なにをする!? 走行中の運転席に窓からの侵入はやめろ! 危険だろうが!」
トラックは叫びながら、右へ、左へ、ドリフトをします。
ネク太郎をふりおとそうとしているのです。
ネク太郎はトラックのボディをへこませるほどの握力で、しっかりしがみつきます。
そして、運転席にあるはずの、『あるもの』へと手をのばしました。
鍵です。
ネク太郎はハンドル横にささっているキーに手をのばします。
不器用に、ひっぱったりひねったりして、あまりスムーズではない手際でキーを抜きました。
派手にドリフトをしていたトラックが、倒れます。
ネク太郎は、運転席をけって、トラックから離れました。
横転し、地面にからだをこすりつけながら、トラックは止まります。
「……ぐ……キーレスエントリーなら、こんな、ことには……」
最期になにかをいいのこして、トラックは、完全にちんもくしました。
ネク太郎は、勝ったのです。
「……やった……魔王をたおしたぞ」
あらく息をつきながら、言います。
そうすると、急に、達成感と疲労感がこみあげてきました。
いちおう、様子をみにいきます。
すると、衝撃で開いたのでしょう、トラックの荷台があいて、中身がこぼれています。
その中には、金銀財宝が、やまのようにありました。
こうして、ネク太郎は、オークをあやつっていた魔王をたおしました。
金銀財宝もたくさん手に入れたので、将来はあんたいですね。
ところが。
ネク太郎の物語は、まだ終わらないのです。




