よんわ
ネク太郎は、オーク島へむかいます。
島へわたる船は、船頭さんが無償でかしてくれました。
船頭さんに声をかけたら、『だからこんなところで商売なんてイヤだったんだー!』と叫んで、いなくなってしまったのです。
いい人ですね。
ネク太郎の重量でも、船はどうにか沈まずにすみました。
自分がちょっと重すぎるエルフであると、ネク太郎はおもっていたので、ホッとします。
オーク島は、緑のない、はげた島でした。
つちくれの大地をふんで、ネク太郎は島へとふみいります。
おや? ようすが、おかしいですね?
金銀財宝をうばったオークが、げはははとかわらいながら、まいにち宴会をしているという、噂だったのですが……
ひょっとしたら、オーク島という名前のただの島で、オークとはなんの関係もなかったのでしょうか?
ネク太郎が悩みながら島をたんさくしていると、どうくつを見つけました。
中をのぞくと、そこには、オークがいます。
緑の肌に、角が生えています。
顎からは牙が、上に向かってつきでていました。
でも、とてもやせています。
目にも、生気がありませんでした。
噂の乱暴者とは、少しイメージが違いますね?
ネク太郎は、声をかけました。
「お前たちが、オークか?」
「……あんたは? この島じゃ見ない顔じゃのう」
「俺は、お前たちの悪事を、止めに来たんだ」
「お、おお、おおおおお」
オークたちは、泣き出します。
いきなりモンスターちっくな生き物にガチ泣きされると、びっくりしますね。
ドンびきです。
「ど、どうしたんだ……?」
「ワシらを、助けてください……もう、ひとさまを襲うのは、イヤなんじゃ……働いても、働いても、ワシらの暮らしは、ちっともよくならん……全部、魔王ってやつに、命令されて、稼ぎも、メシも、そいつに、全部……」
どうやら、黒幕がいるみたいですね。
ネク太郎はとまどいましたが、彼らをたすけることにしました。
困っている相手をたすけなさいという教育を、うけてきましたからね。
どう見たってオークなネク太郎が、自分をエルフだと思いこむほど、強力な教育です。
世間一般では、『せんのう』っていうみたいですよ。
「わかった。助けよう」
「ありがとうございます……! あんた、どこの村のオークで?」
「は? いや、俺はエルフだけど」
「…………そ、そうでごぜえますか……」
オークさんが、ひいちゃいましたね。
あらあら。
「そんなことより、魔王の特徴を教えてくれ」
ネク太郎は、あいてにひかれても、気にしない強い子でした。
オークさんのほうが、話題の転換に、ちょっとついていけてませんね。
あわてて、ネク太郎の質問にこたえます。
「ま、魔王は、おそろしいうなり声をあげる、とてつもなくでかい、鉄のかたまりみてーな生き物でさあ」
「つまり、どういうやつなんだ? 種族は?」
「あんなおそろしい生き物、見たことねえ…………重そうなのに、すげえ速度で走るし……体当たりの威力ったら、もう、あっしらオークが、いちげきで、ぺしゃんこだ」
ネク太郎は、トリケラボアみたいな生き物を想像しました。
よくおうちで食べた鍋に入っていた、あれです。
ネク太郎の知識では、『角のはえたいのしし』ですね。
「……わかった。それじゃあ――」
ネク太郎がもう少しくわしいはなしをきこうとした時です。
ドルンッ!
ドドドドドドドドド……
という、空気を揺らす、ぶきみな音が聞こえてきました。
オークさんたちが、いっせいに、ふるえだします。
「魔王だ……魔王が、かえってきた!」
ネク太郎は、あわてて、オークさんたちのいる洞窟からでました。