さんわ
ネク太郎は、オーク島を目指して歩いていきます。
その途中、道端に女の子が倒れているのを発見しました。
犬耳と犬尻尾のはえた、こがらな女の子です。
たしかハーフリングという種族だったなとネク太郎は思い出しました。
たおれている子を、ほうってはおけません。
ネク太郎は、優しく強い子になりなさいと、おばあさんとお孫さんに、そだてられています。
声をかけました。
「おい、だいじょうぶか?」
「ひいっ!?」
ぐったりしていた女の子は、ネク太郎を見ると、はって逃げようとします。
ちょっとショックでした。
ネク太郎は、女の子の尻尾をつかみます。
「逃げないでくれ。俺は、あやしいものじゃない」
「こ、ころされるー!?」
女の子は話を聞いてくれません。
ネク太郎はこまってしまいます。
こんな時どうすればいいのか、いっしょうけんめい、かんがえました。
そして、思いつきます。
犬のような女の子なので、『えづけ』をすることにしました。
「ほら、落ち着いて、これをお食べ。俺のかあさんがとった、ボア肉だよ」
「おにく!?」
女の子は、おとなしくなります。
しょせんはちくしょうでした。
ネク太郎は、おばあさんからもらったボアの干し肉をひときれ、わたします。
女の子はむちゅうになってかぶりつきました。
固いお肉を、いっしょうけんめいかんでいます。
骨ガムで遊ぶ犬みたいだな、とネク太郎は前世の記憶を思い出しました。
「落ち着いたかい?」
「う、うううう……まさかアンタみたいなヒトに優しくしてもらえるなんて思ってなかったッス」
「おなかがすいて、倒れていたのか?」
「そうッスよ。故郷を飛び出したはいいけど、お金も食べ物もなくって、困っていたんス。アンタは命の恩人ッス。恩返しがしたいッス」
「そうは言っても、俺はこれから、オーク退治に行くところなんだ」
「オーク退治? アンタがッスか? 謀反ッスか?」
「いや、謀反ってなんで」
「だってアンタ、オークッスもん」
「いやいや、俺はエルフだよ」
ネク太郎は、自分のことをエルフだとおもいこんでいました。
おばあさんとお孫さんの、教育のたまものですね。
赤ん坊からしばらく、記憶があいまいなのも、おもいこめた理由のひとつでしょうか。
社会にでたとき、こまりそうですけど、おばあさんとお孫さんは、ネク太郎を社会にだすきは、なかったみたいですね。
「そんな野太いエルフがいてたまるもんかッス」
さっそく、社会にでた弊害ですね。
ネク太郎はどうみたってオークなので、しかたありません。
でも、ネク太郎にほどこされた教育は、強力なものでした。
「たしかにちょっと太いかもしれないけど、俺はエルフだよ。おばあさんも、かあさんも、そう言ってたんだ。ふたりは、俺に嘘はつかないよ」
「すげー欺瞞を感じるッス。こえーッス」
「とにかく、いくあてがないなら、ここからまっすぐいくと、俺の家がある。ネクターロウに言われて来たって言えば、おばあさんも、かあさんも、迎え入れてくれるはずだよ」
「…………オーク退治のおともとか、しなくっても、いいんスか?」
「いきなりあったひとに、肉のいちまいで命を懸けさせようだなんて、そんな卑怯なまねは、できないよ」
その通りですね。
ごはんをいっかいあげたぐらいで、命懸けの旅に同行させるだなんて、むしがよすぎます。
悪徳業者の手口ですね。
ネク太郎は、そういうことはできませんでした。
「……アンタ、いいヒトッスね」
「おばあさんと、かあさんから、ひとに優しく、困っているひとを見たら助けなさいって言われて育ってるんだ。あのふたりのおかげだよ」
それは、ネク太郎がオークとしての本能に負けないよう、ほどこされた教育でした。
しっかりと、ネク太郎の中でいきづいていますね。
「わかったッス。アンタの旅の無事を祈って、おうちで帰りを待ってるッスよ」
こうして、ネク太郎とハーフリングの女の子は、別れました。
このあとも、ネク太郎は、翼を傷つけておうちに帰れなくなったバードリングの女の子や、部下に裏切られて瀕死の重傷を負った逃亡中の女騎士さんにであいますが、このふたりも、自分の家へとむかわせました。
たったひとりきりで、オーク島にいきます。
もともと強いネク太郎です。
きけんな旅に、仲間はいらないのでした。