にわ
アンブロシアの中からは、げんきそうな、おとこのこが産まれました。
体には、きずひとつありません。
どうやら、おとこのこは、死ぬほどのけがをしたって、すぐに再生するようでした。
おばあさんとお孫さんは、そのおとこのこをそだてることにしました。
アンブロシアから産まれた不死身の存在なので、神話になぞらえて『ネクターロウ』という名前をつけることにしました。
ネク太郎は、おばあさんとお孫さんにそだてられ、すくすくおおきくなります。
種族はエルフではないみたいでした。
けど、おばあさんも、お孫さんも、エルフの国からはやや離れたところにすんでいますので、あまり関係はありませんでした。
ボア鍋を食べつづけて、ネク太郎は、立派で、非常に屈強な男に成長しました。
おばあさんとお孫さんの見た目年齢は、ぜんぜんかわりません。
エルフは遅老長寿の種族なので、あたりまえですね。
○
おおきくなったネク太郎は、おばあさんとお孫さんにいいます。
「今まで育ててくれてありがとうございました。実は俺、昔、トラックに轢かれて死んで、こことは別な世界から転生してきたんです。恩返しのためにも、さいきん、乱暴やどろぼうをして、このあたりを騒がせているオークを退治に、オーク島に行こうと思います」
おばあさんとお孫さんは、とまどいました。
別な世界とか、なにをいってるんだろうとおもいました。
これまでかわいがってそだてたネク太郎の頭がおかしくなったのかと、悲しいきもちです。
それに、いくら頭がおかしくなっても、オーク退治には賛成できませんでした。
オークというのは、おっきな化け物です。
言葉が通じず、気まぐれで、乱暴者。
酒と肉を好み、えっちなことが好きで、つかまったエルフや人間はあんなことやこんなことをされると、怖がられていました。
それに、もうひとつ、反対するべき理由が、あったのです。
おばあさんとお孫さんは、ネク太郎にどうにか危ないことはやめてもらおうと、説得します。
「あんたがそんな、あぶないことをすることはないんだよ。これまで通り、狩りをしたり、洗濯をしたりして、穏やかに暮らしていけば、いいじゃないか」
「そうよ。あぶないことはよして、いっしょにゆっくり、くらしましょう」
説得をしますが、ネク太郎は納得しません。
彼は、育ててくれたおばあさんとお孫さんを危ない目にあわせないためにも、オークを退治するべきだと、つよくしんじていたのです。
ちょっと根拠があいまいですけどね。
せっかく転生したので、力をためしたいという思いも、あったのでしょう。
ネク太郎のかたいいしに、ついに、おばあさんとお孫さんもおれました。
「……わかったよ。おべんとうを、もたせてあげよう。そのかわり、きっと無事にかえってくるんだよ」
「わたしもいっしょにいってあげたいけど、おばあちゃんをひとりでのこすわけにはいかないし……あなたの無事を、ねがっているわ」
おばあさんは、旅のおともに、ボア肉を干したものをもたせてくれました。
ネク太郎は葉っぱでつつまれた干しボア肉を大事そうにうけとって、オーク退治にむかいます。
さっていくネク太郎。
おばあさんとお孫さんは、だきしめあって、はなします。
「……ついにこの日が来てしまったね」
「そうね。おばあちゃん、ネクターロウは帰ってくるかしら?」
「どうだろうねえ……」
おばあさんは、かなしい声で、つぶやきます。
ネク太郎の無事は、信じています。
きっと、不死身の彼は、オーク島にのりこんでも、無事でかえってくるでしょう。
だから心配なのは。
「……あの子、自分がオークだってきづいたら、仲間のもとにかえっちゃうのかねえ」
アンブロシアから産まれたネク太郎の見た目が、オークそのものなので。
同じ種族の仲間とであったら、そちらについてしまうのではないか。
それだけが、ふたりの不安でした。