いちわ
これは、とてもすごいことをなしとげたおうさまが、すごいことをするまでのおはなしです。
むかしむかしあるところに、エルフのおばあさんと、そのお孫さんがすんでいました。
背がひくくて童顔なほうがおばあさんで、背がたかくてすらりとした美人がお孫さんです。
ある日、お孫さんは森へ狩りに、おばあさんは、川へ洗濯へいきました。
すると、洗濯をするおばあさんは、川のむこうから、どんぶらこ、どんぶらこと、なにかが流れてきているのをみつけます。
それは、とてもおおきな、アンブロシアの実でした。
鈴のようなかたちをしたオレンジ色の果物で、甘酸っぱくてみずみずしいので、おばあさんの大好物でした。
ふつうはてのひらサイズなのですが、流れてくるそれは、どうみたって、おばあさんのちいさなからだよりも、ずっとおおきいです。
おばあさんは、おおよろこびして、アンブロシアの実をとろうとします。
しかし、おおきな実は、重さもかなりのものでした。
おばあさんはエルフなので、からだはまだ若いですが、エルフはもともと腕力のある種族ではありません。
アンブロシアの実は、そのまま、どんぶらこ、どんぶらこと川の下流へ流れていってしまいました。
洗濯を終えたおばあさんは、お孫さんのためにおゆうはんの用意をします。
エルフは細身という特徴なので、草食に思われがちですが、お肉をよくたべます。
弓を得意とする狩猟民族ですから、あたりまえですね。
今日の夕食は、トリケラボアというどうぶつのお肉です。
このあたりの森に、おおくせいそくしている、四足歩行の生き物でした。
大きな牙がとくちょうで、まるっとした体型のわりにとてもはやく、ゆだんするとすぐに体当たりをしてくる、ちくしょうです。
お肉はくさみをうまく処理できれば、とても濃厚な味で、げんきもでます。
おばあさんは、ボア鍋をつくるのが、とくいでした。
お孫さんも、おいしいと言ってくれます。
でも、おりょうりをしていても、おばあさんの頭のなかは、川で逃したアンブロシアでいっぱいでした。
あんなおおきなアンブロシア、もうにどと食べられないでしょう。
そう思うと、ため息が止まりません。
ゆうがたになって、お孫さんがかえってきました。
なんと、お孫さんは、昼におばあさんが逃したアンブロシアをもっているではありませんか!
「あらまあ、それ、どうしたの?」
「これ? 川の下流で拾ったんだけど……おばあちゃん、大好きでしょ?」
「おやおや、そうだったのかい……実は洗濯していた時にあたしも見かけたんだけど、重くて拾えなかったんだよ。あんたは本当に、おばあちゃん孝行だねえ……」
「そ、そうかな?」
「ああ、ほんとうに、いい子さ……さ、おいで。ボア鍋もできているよ。おやつに、アンブロシアを切ってたべようね」
おばあさんはうれしそうにいって、お孫さんにボア鍋をよそってあげます。
ふたりは、しあわせそうな顔をして、おゆうはんをすませました。
いよいよアンブロシアのでばんです。
ただの包丁ではきれないとおもったおばあさんは、狩りの獲物をさばくのにつかう、ククリナイフをもちだしました。
そして、アンブロシアを、てっぺんから、いっきに、まっぷたつにします。
さすがは元狩人です。みごとな剣さばきだと、お孫さんはかんしんしました。
中からは、真っ赤な果汁がとびだします。
みょうでした。
アンブロシアは、オレンジ色の実なのです。
果汁も、オレンジのはずでした。
なんだろうと思って、おばあさんとお孫さんは、アンブロシアの中をのぞきこみます。
すると、中には、ひとがいました。
果汁だと思ったら、血だったのです。
あらあら、こまりましたね。