睡魔とタイマー
僕に朝を告げたのは目覚まし時計ではなく、キッチンタイマーだった。
寝ぼけ眼でヨロヨロとキッチンに向かうけれど、我が家のキッチンタイマーはうんともすんとも言っていない。
おやおや?と首を傾げる。軽く顔を洗い、大きく欠伸をひとつしてからよく耳をすませば、どうやらお隣さんから聞こえてくるようだった。
ピピピピッ、ピピピピッと一定のリズムが、アパートの壁の向こうで繰り返されている。
もしかして、と嫌な予感が頭をよぎる。
もしかして、料理をしている途中にお隣さんに何かあったのかも。
だとしたら、熱源はつけっぱなしのはず。
火事?いやいや、下手したら大爆発もありうる。
無機質で無表情なピピピピッが、僕の不安を煽る。
急いで警察や消防に連絡か、いやいや、先にお隣さんに向かうか。
あわあわと大慌てで家を飛び出すと、途端にピピピピッは黙りこんでしまった。
「ほら、起きて」と、女の人の声がした。
心配して損した。なんだよ、せっかくの休日を。
僕はボリボリ頭をかきながら、部屋に戻り、ふとんに潜り込んだ。
すぐに睡魔がやってきた。
うとうとしかけたとき、ふと僕は考えた。
はて、お隣さんは女性だったかな。
もっと言えば、お隣さんなんか居ただろうか。
そもそも、僕は誰なんだ。
ピッ、ピピピッ。
ここはどこだ。
ピピッ、ピピピピッ。
起きているの、眠っているの。
ピピピピッ、ピピピピッ。
僕の心臓が……心臓だろうか、なんだか爆発してしまいそうだ。
ピピピピッ、ピピピピッ。
一定のリズムが僕の中で繰り返されている。