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 深い深い夢の中で、狼は静かに感覚を研ぎ澄ませる。

 この感覚は数日ぶりだ、と、これまでよりも軽い気持ちで。

 狼に疑問が訪れた原因は、そこに映る景色が自分の憩いの場所であったからだろうか。

 のどかな木漏れ日の中に響く歌声は、紛れもなく小鳥のものだと理解出来てしまったからだろうか。



 そんなまさか。



 その気持ちは何故のものだったのだろう。

 感情の上に成り立つ願望など、現実を前にして無意味に等しい。

 それを理解していないわけではなかったのに。

 小鳥が自分の夢の当事者になり得る事はない、と、いつからそんな確証のない事実を掲げていたのだろうか。



 あぁ、やめてくれ。

 どうか別の誰かであってくれ。



 狼の脳裏にどれだけその思いが広がりを見せようとも、それは無駄に終わってしまう事となる。

 やがて美しい音色をかき消すように轟いた銃声。

 強くも優しい声からはかけ離れた悲痛な鳴き声。

 ボトリ、と地面に落ちた小さな体は、真っ白な体表を赤く染め上げていた。



「……くそ。……でかいの狙ったつもりが、こんなのに当たっちまった」



 舌打ちと溜息を連続させた声はあまりにも下衆い。

 夢の中で堪えようのない殺害衝動に駆られながら、狼は「早く終われ」と、声にもならない声で叫び続けた。


 やがて人間の姿が景色の中から消えていくと共に迎えた目覚め。

 狼の息は全力疾走した時のように乱れていた。

 目から溢れ出る涙を自覚し、乱れた呼吸は嗚咽へと移り変わりを見せていく。


 悲しい。

 辛い。


 たった一つの心の拠り所が消えてなくなる瞬間を、否応なく見せ付けられた。

 だけど狼は、それらの感情の本当の矛先を理解していたのだ。

 どうして自分が悲しいのか、辛いのか。

 それを理解して尚、狼の足は重たくも歩き始めていた。

 小鳥を守る為に。

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