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深い深い夢の中。
ダーン! と、大きくその音は轟いた。
見慣れた景色の中、一匹の狐が腹から血を流して倒れ込む。
苦しげな表情を見せる狐の動きが徐々に力を失くしていき、最終的には目の光を消してしまったのだった。
それはあまりにも痛々しく、出来る事ならば目を背けたい光景。
だけど目を背ける事は叶わない。
自分の夢でありながら、それ程の自由を夢は与えてはくれないのだ。
まるで瞼を失くしてしまったかのように、顔を背けようとも耳を塞ごうともそれらの情報は脳内へ入り込んでくる。
地面を擦り歩く音。
卑しく口角を持ち上げた笑み。
そして息絶えた狐へと伸ばされていくゴツゴツした手。
あぁ、起きてしまいたい。
狼は思う。
だけど同時に、自分が起きれる事はないとも理解していた。
夢がどれだけ残虐な場面を映し出そうとも、起きたいと願っても、それが叶った事など一度もないのだから。
夢を見るこの瞬間、狼の脳と体は分離してしまう。
脳が目覚めを望んでいても、その眠り心地はあまりに気持ち良く、体の方が起きる事を拒絶してしまうのだ。
まるで夢に縛られているかのように、取り込まれたかのように。
夢は狼に起きる事を許してはくれない。
狼が最後を見届けるまでは。