あの絵本を読んで死んだ猫
とある童話を、ふと思い出して久しぶりに執筆してみた。
悲しい話になってしまったので閲覧注意と書いておきますが、決して絶望がテーマというわけではありません。
着想以外、内容は100%オリジナルですが、知らないだけで似たようなものをすでに誰かが書いている可能性は大。
猫はある日、ご主人さまが子どもに、絵本を読み聞かせているのを見ていました。
この猫はただの雑種で、ありきたりの飼い猫でしたが、真実の愛を見つけて二度と生き返らなかったという絵本の猫に、彼は憧れるようになりました。そして毎日ご主人さまが餌をくれる満ち足りた生活から、抜け出したのです。
安穏だった家の暮らしと違って、餌をとる事もままならず、猫は痩せ衰えてすぐに死にました。
次に生き返った猫は、今までだったら考えもつかないような方法で…薄汚れたゴミ箱から残飯を漁る事を覚えました。
しかし、ある時その縄張りのボス猫に襲われ、喧嘩になりました。
弱かった猫は一方的にやられ、ひどい傷を負って死にました。
生き返った猫は爪を研ぎ、ボス猫に決して負けないように喧嘩の練習をしました。他の弱い猫と喧嘩して、何度も勝てるようになったのです。
そしてとうとうボス猫に勝ち、周りの猫たちにも恐れられるようになりました。
しかしうっかりそのボス猫の飼い主に捕まり、袋に入れて道路に投げられました。
気付かずに通った自転車に踏まれ、猫は死にました。
生き返った猫は人間の姿を見るといちもくさんに逃げるようになりました。
しかし人の影に怯え、物陰から飛び出した猫は今度は大きなトラックに轢かれ、身体はあとかたもなく引き裂かれてバラバラになってしまいました。
生き返った猫は、苦労して愛くるしい仕草を覚えました。毛皮もなめてつやつやにしました。きれいにして人懐こくしていればひどい事はされないでしょうから。
しかし猫が大嫌いな人の庭に、毒の餌が置かれていた事を知らずに食べてしまい、死にました。
生き返った猫は、頭が悪かったせいだと、学者先生の家に居候しましたが、今度は先生の飲み残したビールを舐めてしまい、庭のみずがめで溺れ死にました。
科学者に妙な箱の中に入れられて、割れた瓶の毒でいつのまにか死んでいた事もあります。
生き返った猫はさだめというものを考えました。
猫の神さまがいるとしたら、日頃の行いが悪いせいできっと嫌われているのだ、と。
そして丘の上に置かれた石に、毎日捕まえた鼠を置くようにしました。するとそれを知った鷹に狙われ、大きなかぎ爪に摑まれて死にました。
生き返った猫はとうとう諦めて、その日暮らしの自堕落な生活を始めました。性格はやさぐれ、毛皮は汚れ、身体はどんどんみすぼらしくなってゆきました。
そんな時でも猫は何度も死にました。
じつは、その間にかわいい猫に巡り合った偶然もあります。しかしそんな猫は、彼の姿を見ると、ヒゲをひそめて逃げてゆくのです。途中までうまくいっているように見えても、最後はいつもそうなるのです。悲しくて海に身を投げた事もありました。
餌をゆずってあげたり、強さを誇示したり、猫の神さまに祈ったりしても無理でした。餌のあるときだけ近寄って来たり、目を離した隙に弱い猫と逃げたり、石の上に捧げたお供え物をこっそり食べられたりしたのです。
何度死んでも、どんな事をしても、愛しあえる猫には出会えませんでした。
何度も何度も死ぬたびに、猫はそれだけを後悔しました。
とうとう百万回めに死んだとき、猫はそれまでで一番ひどい格好でした。
醜く汚れた身体はもう傷でボロボロでした。毛皮は裂け、肉が腐り数匹の蛆虫がその中を這っていました。
百万回死んだ猫はそんな自分を見て、泣いて、泣いて、やっと初めて分かりました。誰が、こんな猫を愛すものかと。しかし結局何もかも無くなった、今のこんな俺こそが、本当に本当の自分なんだな、と。
すると空から光が差してきて、猫の体を照らしました。
その時猫はとても満足そうな顔をして死んでいました。
次に生き返った時はきっと、いいことがあるといいね、
おしまい