ー【第二節】小鳥のさえずりと家庭菜園、それはかつてのブラック労働とは対極にある優雅な日常
第二節 小鳥のさえずりと家庭菜園、それはかつてのブラック労働とは対極にある優雅な日常
私の現在の生活は、一言で言えば「最高」だ。
朝は、小鳥のさえずりと共に目覚める。
かつてのように、近衛兵の「起床! 点呼!」という怒鳴り声や、結界の異常を知らせる警報音で叩き起こされることはない。
ふかふかのベッド(これもバリアの効果でダニ一匹いない)から這い出し、顔を洗ってテラスへ出る。
午前中は、庭の家庭菜園で汗を流すのが日課だ。
今はトマトとバジル、それにハーブ類を育てている。
土いじりは無心になれる。
かつて国政の書類と格闘していた時間は、今は土と戯れる時間へと変わった。
「あら、もうこんなに赤くなってる」
鈴なりに実ったミニトマトを一つ摘み、そのまま口に放り込む。
太陽の味がして、甘酸っぱい果汁が弾ける。
これが幸せというものだ。
昼食は、収穫した野菜で作った簡単なサラダとスープ。
午後は読書をしたり、昼寝をしたり、ただぼんやりと空を流れる雲を眺めたりして過ごす。
「生産性がない」と前の職場なら罵倒されただろうが、ここでは誰にも文句は言われない。
そして夜。
私はテラスの椅子に深々と腰掛け、ホットミルク(時には村人から貰った葡萄酒)を片手に、夜空を見上げる。
膝の上には、私の相棒である毛玉ちゃん。
『モフゥ……』
「今日も平和だったわねぇ、毛玉ちゃん」
私は毛玉を撫でながら、今日一日の「懺悔」を口にする。
かつては殺意や呪詛といった特大のストレスを餌にしていたが、今の私にはそんな激しい感情はない。
「ごめんね、今日は雑草が一本抜けなかったの。あと、お昼寝しすぎて本が三ページしか進まなかったわ」
『モフッ』
毛玉は私の指先から、ほんのりと立ち上る薄い灰色のモヤを吸い込む。
これは私の「微々たる罪悪感」だ。
かつてのドス黒い瘴気に比べれば、カロリーゼロのダイエット食のようなものだろう。
おかげで、最近の毛玉ちゃんは少しスリムになった気がする。
以前のような、今にも暴発しそうな膨満感はなく、ツヤツヤとした健康的な黒光りを放っている。
私も毛玉ちゃんも、実に健康的な生活を送っているのだ。




