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ー【第三節】黄金に輝く解脱の光、全ての執着を捨て去った聖女が得た最強のスキル

第三節 黄金に輝く解脱の光、全ての執着を捨て去った聖女が得た最強のスキル


『ピコン!』


幻聴だろうか。

頭の中で、何かのスイッチが入ったような音がした。


私の精神状態が、これまでにない領域へと達したのだ。

それは、単なるリラックスではない。

全ての執着、怒り、悲しみ、欲望……あらゆる煩悩がどうでもよくなる、「無」の境地。


俗に言う、「悟り」である。


「ああ……見える……私、全てから解放されるわ……」


私の口から、自然とそんな言葉が漏れた。

自分でも驚くほど、穏やかで慈愛に満ちた(ただし対象は自分自身のみ)声だった。


その時、現実世界の私の体に異変が起きた。


ブゥン!


低い重低音とともに、私の体が黄金色の光に包まれ始めたのだ。

それは聖女の加護のような神々しい光ではない。

もっと根源的で、圧倒的な拒絶の光だ。


馬車全体が、金色に輝き出す。

車輪の軋みも、外の風切り音も、すべてが遠くへ追いやられていく。


私の脳裏に、無機質なアナウンスのような感覚が響いた。


【条件を満たしました。固有スキル『絶対安息領域サンクチュアリ』を習得しました】


(絶対、安息、領域……?)


ぼんやりとした意識の中で、私はその言葉を反芻した。

直感的に理解する。

これは、防御魔法ではない。

聖女の結界術でもない。


これは、私の「もう誰にも邪魔されたくない」「あらゆる面倒事に関わりたくない」という、究極の事なかれ主義が具現化した力だ。


私の半径数メートル以内に、私にとって「ストレス」となる存在を一切寄せ付けない。

物理的な攻撃はもちろん、精神的な干渉、不快な音、悪意ある視線に至るまで、全てを遮断する最強の拒絶結界。


「ふふ、あはは……」


私は力なく、しかし心からの笑い声を上げた。

すごい。これがあれば、私は無敵だ。

もう二度と、誰かに理不尽な命令をされることもない。

私の安眠を妨げる者は、この世界から弾き出されるのだ。


私は、ゆっくりと目を開けた。

そこはまだボロ馬車の中だったが、空気は一変していた。

埃っぽかった車内は清浄な空気に満たされ、隙間風も完全に遮断されている。


そして何より、私の心が平穏そのものだった。

まるで、長い修行の果てに解脱した高僧のような、静謐な心持ち。


私は、新しい人生を手に入れたのだ。


第四節 飛び込んだ羽虫さえ戦意喪失、それはスローライフへの確固たる決意表明


習得したばかりの【絶対安息領域サンクチュアリ】の効果は、すぐに証明された。


馬車の窓の隙間から、一匹の羽虫が飛び込んできたのだ。

ブンブンと羽音を立てて、私の顔の周りを飛び回ろうとしたその時。


私の体から薄く発せられている金色の光に、虫が触れた。


ポトリ。


羽虫は空中で動きを止め、まるで糸が切れた人形のように床に落ちた。

死んだのではない。

よく見ると、手足を投げ出して仰向けになり、ピクピクとリラックスしたように震えている。


どうやら、私の領域に触れた瞬間に、闘争心や活動意欲を完全に奪われ、「虚無モード」に強制移行させられたようだ。

虫けら一匹でさえ、私の安息を妨害することは許されない。


あるいは、別の虫が窓の外から入ろうとしたが、見えない壁に弾かれたかのように、くるりと方向転換して森の方へ帰っていった。

「あ、ここ入っちゃダメな場所だわ」と本能で悟ったかのような動きだった。


「素晴らしいわ……」


私は感嘆の溜息を漏らした。

これなら、修道院についても害獣や害虫に悩まされることはないだろう。

いや、人間関係の煩わしささえも、このバリアがあれば解決できるかもしれない。


私は悟りを開いた穏やかな顔――アルカイックスマイルを浮かべながら、空になったカップをサイドテーブル(と見立てたボロ箱)に置いた。


膝の上では、満腹になった毛玉が幸せそうに寝息を立てている。

こいつもまた、私の安息の一部だ。


窓の外はすっかり暗くなっていた。

夜空には星が瞬いている。

王都の方角を見ても、もう何の感情も湧いてこない。


「さようなら、ブラック職場」


私は誰に聞かせるでもなく、静かに宣言した。

その声には、微塵の未練もなかった。


「私はこれより、この毛玉と共に、誰にも邪魔されないスローライフ(隠居)に入ります」


馬車は金色の光を帯びたまま、夜の街道をひた走る。

行き先は辺境の修道院。

そこは牢獄などではない。

私にとっての、約束された楽園エデンなのだ。


こうして私は、聖女としての過去を捨て、ただの「解脱した女」として、第二の人生を歩み始めたのである。

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