ー【第二節】ココナッツジュースと白い砂浜、それはブラック労働者が夢見た究極のバカンス体験
第二節 ココナッツジュースと白い砂浜、それはブラック労働者が夢見た究極のバカンス体験
光が収まると、そこはもうボロ馬車の中ではなかった。
少なくとも、私の意識の中では。
(……波の音が聞こえる)
ザザァ……ザザァ……。
心地よいリズムで打ち寄せる波の音。
頬を撫でる風は、磯の香りと共に南国の甘い花の香りを運んでくる。
目を開けると、そこには絶景が広がっていた。
透き通るようなエメラルドグリーンの海。
どこまでも続く白い砂浜。
頭上には真っ青な空と、燦々と輝く太陽。
そして、木陰を作ってくれる大きなヤシの木。
(ここは……)
私はビーチチェアに寝そべっていた。
サイドテーブルには、冷えたココナッツジュースと、色鮮やかなトロピカルフルーツの盛り合わせ。
そして何より重要なのは、ここに「誰もいない」ということだ。
上司はいない。
「至急案件です」と書類を持ってくる文官もいない。
ヒステリックに叫ぶ王子も、嫌味な婚約者の浮気相手もいない。
あるのは、ただ圧倒的な「自由」と「静寂」だけ。
(ああ、最高……)
私は幻覚の中で、ココナッツジュースにストローを挿して飲んだ。
冷たくて甘い液体が喉を潤す。
現実のホットミルクの味がリンクして、さらに幸福感を増幅させる。
これが、毛玉ちゃんが見せてくれる「ご褒美」だ。
私がストレスを提供した対価として、精神世界で極上のリラックス体験をさせてくれるのだ。
現実の馬車はガタガタと揺れているはずなのに、今の私には、それが心地よいハンモックの揺れにしか感じられない。
不快な振動さえも、極上のゆりかごに変えてしまうほどの強力な幻覚作用。
脳髄が痺れるほどの快感。
全身の細胞の一つ一つが、緊張を解いて弛緩していくのがわかる。
(もう、どうでもいいわ……)
王宮がどうなろうと知ったことではない。
レイド殿下が新しい聖女とどうなろうと興味がない。
国が滅びようと、私が知ったことではない。
ただ、この波の音を聞いていたい。
ただ、この安らぎに身を委ねていたい。
その瞬間、私の中で何かが弾けた。




