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ー【第五節】神経質な声が平穏を切り裂く、ついに現れた元婚約者の愚かなる来訪
第五節 神経質な声が平穏を切り裂く、ついに現れた元婚約者の愚かなる来訪
『モフッ!』
膝の上で丸くなっていた毛玉ちゃんが、短く鋭い警告音を発した。
いつもの甘えた鳴き声ではない。
明らかに、警戒している。
「どうしたの?」
私が尋ねるよりも早く、修道院の外、バリアの境界線あたりから、聞き覚えのある声が響いてきた。
「セシリア! セシリア・オルコット! いるのだろう!? 出てこい!」
空気を切り裂くような、ヒステリックで神経質な声。
忘れるはずもない。
かつて私の鼓膜を震わせ、胃をキリキリと痛めつけていた、あの声だ。
私は溜息をつき、優雅にカップをソーサーに戻した。
せっかくのティータイムが台無しだ。
「……本当に、空気の読めない人」
私はゆっくりと立ち上がり、テラスの手すりに手をかけた。
眼下に見える門の前。
そこには、予想通りの人物が立っていた。
ボロボロの鎧。
泥にまみれたマント。
そして、血走った目でこちらを睨みつける、かつての婚約者。
平穏な楽園に、招かれざる客がやってきたのだ。
だが、今の私には焦りも恐怖もない。
あるのは、「また面倒なのが来たな」という、虫を払うような感情だけだった。




