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【第一章】【第一節】ガタンゴトンと遠ざかる王宮、それは悲嘆の旅路ではなく歓喜への脱出劇だった

第一章 追放と至高の一杯


第一節 ガタンゴトンと遠ざかる王宮、それは悲嘆の旅路ではなく歓喜への脱出劇だった


ガタン、ゴトン。

ガタン、ゴトン。


車輪が石畳から未舗装の街道へと移り変わる独特の振動が、板張りの床から伝わってくる。

古びた木材が軋む音と、蹄鉄が土を蹴るリズム。

それは、王都から遠ざかるボロ馬車の揺れだった。


窓の外を流れる景色は、見慣れた石造りの街並みから、どこまでも続く田園風景へと変わっていく。

遠く後方には、かつて私が囚われていた場所――王宮の尖塔が、夕焼けに染まりながら小さくなっていくのが見えた。


「……ふぅ」


私は大きく、本当に大きく息を吐き出した。

それは、悲嘆の溜息ではない。

肩にのしかかっていた鉛のような重圧が、すっと空気に溶けて消えていくような、深い深い安堵の吐息だった。


私の名前はセシリア・オルコット。二十歳。

つい数時間前まで、この国の『聖女』と呼ばれていた女だ。


ガタン、と馬車が大きく跳ねる。

けれど、その不快な揺れさえも、今の私には心地よいゆりかごのように感じられた。


脳裏に蘇るのは、先ほど王宮の大広間で繰り広げられた、あの茶番劇だ。


きらびやかなシャンデリアの下、着飾った貴族たちが扇子で口元を隠しながら囁き合う中、一段高い場所に立つ男がいた。

私の元婚約者であり、この国の第二王子、レイド・アレクサンドル殿下だ。


彼は、その整った顔を憎々しげに歪め、私を指差してこう叫んだのだ。


『セシリア! お前のような、聖女の力を失った出涸らし女との婚約は破棄する!』


広間にどよめきが広がる。

レイド殿下の隣には、ピンク色の髪をふわふわと揺らす小柄な少女が寄り添っていた。

最近見つかったという「新しい聖女」、男爵令嬢のミリアだ。

彼女は上目遣いで殿下を見上げ、勝ち誇ったような、それでいて庇護欲をそそるような表情で私を見ていた。


『真の聖女とは、ミリアのような清らかな心を持つ者のことだ! 貴様のような陰気で魔力の枯れた女など、王家には不要!』


殿下の言葉に、取り巻きの側近たちも追従する。

「そうだそうだ」「出涸らし聖女め」「ミリア様こそ真の愛だ」


嘲笑。侮蔑。

四方八方から突き刺さる悪意の視線。


そして、レイド殿下は最後に高らかに宣言した。


『辺境の修道院で、その薄汚れた根性を一生かけて悔い改めよ! 二度と王都の地を踏めると思うな!』


悔い改める?

誰が? 私が?

馬鹿をおっしゃい。


あの時の私の内心を、彼らが知ったらどう思うだろうか。

俯いて震えていた私の肩は、絶望で震えていたわけではない。

笑いを堪えるのに必死だったのだ。


(あー、やっと終わった! これで帰れる! ついにクビだわ!)


心の中でガッツポーズを決め、私は殊勝な顔で「謹んでお受けいたします」と頭を下げたのだった。


そうして私は、着の身着のまま、最低限の荷物だけを持ってこの馬車に放り込まれた。

護衛も御者も、私を厄介払いできたことに安堵しているような空気だったけれど、彼らは知らない。

私が今、人生で一番清々しい気分であることを。


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