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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 蒼野湊


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第98話 修正されない連鎖

 始まったな、という言葉は、

 会議室の中で誰も否定しなかった。


 翌朝。


 追加の報告は、すでに三件届いていた。


> 同系統施設

> 小規模損傷 二件

> 処理遅延なし

> 修正不要


 そしてもう一枚。


> 同系統施設

> 機能停止 一件

> 復旧済

> 修正不要


 機能停止。


 言葉が一段重くなっている。


「……“小規模”ではないな」

 若い事務官が、低く言う。


 誰も返事をしない。


 レインは、三枚の報告を横に並べた。


 文面は、ほぼ同じだった。


 違うのは、被害の程度だけ。


 だが結論は変わらない。


 修正不要。


「……繰り返している」


 レインの声は静かだ。


「同じ系統で、

 同じ形で、

 同じ結論が出ている」


 誰もが分かっている。


 だが、止まっていない。


 午後。


 追加の照会を出す案が出る。


「今回は詳細を求めるべきです」

 若手官僚が言う。

「再発性が疑われます」


「疑われる、では弱い」

 レインが答える。

「すでに連鎖している」


 短い沈黙。


「……それでも、

 彼らは修正しない」


 その言葉が、重く落ちる。


 主人公は、机の上の報告書を一枚めくった。


「理由は簡単だ」


 全員が視線を向ける。


「修正する必要がないからだ」


 空気が固まる。


「……必要が、ない?」

 若手が聞き返す。


「数字の上ではな」


 確かに。


 処理遅延はない。

 復旧も迅速。

 全体効率に影響なし。


 数字だけ見れば、

 修正する理由はない。


「だが」

 レインが続ける。

「現象は繰り返されている」


「繰り返しても、

 数値に影響がなければ、

 問題と認識されない」


 主人公の言葉。


 冷たい事実だった。


 会議室に、沈黙が広がる。


「……では、止まらない」

 誰かが呟く。


 答えは、誰も持っていない。


 夕方。


 北方からの追加報告が届く。


> 同一地区

> 連続障害発生

> 部分避難実施

> 処理遅延なし

> 修正不要


 “部分避難”。


 被害が明確に拡大している。


 それでも。


 文末は変わらない。


 修正不要。


 レインは、目を閉じた。


「……ここまで来ても、

 変わらない」


 若手官僚が、声を震わせる。


「なぜですか」


 レインは、ゆっくりと目を開く。


「変える仕組みがないからだ」


 その言葉は、明確だった。


「彼らは間違っていない」


 全員が息を止める。


「間違っていないから、

 修正しない」


 沈黙。


「だが」

 彼は続ける。


「間違えられない構造になっている」


 その瞬間、

 全員が理解した。


 北方は強い。


 だがそれは、


 間違いを認識できない強さだ。


 夜。


 さらに一通の速報。


 今度は、短くない。


> 北方大国

> 同系統施設

> 広域停止

> 影響人口 約三千

> 復旧中

> 処理遅延なし

> 修正不要


 三千。


 数字が跳ね上がる。


 会議室が、凍りつく。


「……これでも、修正しないのか」


 誰も答えない。


 答えは、すでに書かれている。


 修正不要。


 レインは、ゆっくりと立ち上がる。


「止める場所がない」


 低い声だった。


「止める理由も、

 止める手段も、

 止める責任もない」


 主人公は、静かに言う。


「だから進む」


 それだけだった。


 数字は、まだ壊れていない。


 効率も維持されている。


 だが。


 確実に、

 何かが崩れ始めている。


 それでも。


 誰も、止めない。


 成り上がりは、

 正しさを積み上げる物語ではない。


 **正しさが崩れ始めても、

 止められない物語だ。**


 窓の外は静かだ。


 だが、

 遠くで、

 確かに音がしていた。


 まだ、小さい。


 だが、

 止まる音ではなかった。

いよいよ北方の「止まれなさ」が、はっきり形になってきました。

正しいのに止まれない、という状態がどこまで進むのかが次の焦点です。


続きが気になった方は、ブックマークと評価で応援していただけると嬉しいです。

次話はさらに一段、踏み込みます。

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