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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 蒼野湊


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第80話 救えなかった名前

 夜明け前に、雨はようやく弱まった。


 水位は、緩やかに下がり始める。


 被害報告が、少しずつ揃い始めた。


> 死者 二名

> 行方不明 一名


 数字は小さい。

 だが、重い。


 会議室は、静まり返る。


「救出総数は、過去五年で最多です」

 若手官僚が、慎重に言う。

「全体効率は高い」


 レインは、何も言わない。


 俺は、報告書の別紙を見る。


 名前が記されている。


 イーサン・ローレル

 六十二歳

 避難途中、流失


 数字の下に、名前。


 それだけで、重みが変わる。


 午後。

 ルカが、泥だらけの姿で王都に戻る。


「三名は助かった」


 短い報告。


「だが、別地区で一名間に合わなかった」


 彼は、視線を逸らさない。


「計算は正しかったのか」


 レインが、静かに問う。


「知らん」

 ルカは即答する。

「だが、あの三人は目の前にいた」


 沈黙。


「総救出数を最大化すれば、

 一人は助かった可能性がある」

 若手が言う。


 ルカは振り向く。


「可能性だ」

「顔は、なかった」


 会議室が凍る。


 レインは、ゆっくりと言う。


「……私は、総数を見ていた」


「俺は、目の前を見ていた」


 どちらも、間違っていない。


 だが、一人は救えなかった。


 夜。

 帳簿を閉じる。


「数字は、冷たいのではない」

 俺は言う。


「足りない」


 レインが、目を上げる。


「何が」


「顔だ」


 数字は集計できる。

 確率も出せる。


 だが、

 目の前の顔は、

 計算式に入らない。


 成り上がりは、

 最も多くを救う物語ではない。


 **救えなかった一人の名前を、

 忘れない物語だ。**


 雨は止んだ。


 水は引き始めた。


 だが、

 帳簿の端に、

 一つの名前が残ったままだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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