第79話 救える数
夜が明けても、雨は弱まらなかった。
被害報告は断片的に積み上がる。
> 浸水区域拡大
> 避難所満員
> 医療物資不足
会議室の地図は、赤で埋まり始めていた。
「救助隊は限界です」
若い事務官が言う。
「人員を再配置しなければ」
「救える人数を算出します」
レインが答える。
彼は即座に計算式を書き出す。
移動時間。
救出成功率。
地形条件。
生存確率。
「優先順位は、成功確率が高い地区から」
合理的だ。
数字に従えば、救える総数は最大化される。
その時、通信が入る。
「中央か」
ルカの声だ。
息が荒い。
「南西第三区、取り残しがいる」
「人数は」
レインが問う。
「三名」
「うち一人は動けない」
地図を確認する。
第三区は、成功確率が低い。
「他地区の救出を優先すれば、
総救出数は増えます」
若手が言う。
沈黙。
「三名を救う間に、
別地区で十名救える可能性があります」
正しい。
だが。
ルカの声が割り込む。
「三名の顔が見えている」
短い言葉。
「数字は見えないが、
顔は見える」
会議室の空気が凍る。
レインは、目を閉じる。
「……成功確率は低い」
「低くても、行く」
ルカは即答する。
「中央の許可がなければ、
後で責任問題になります」
「生きていれば、
責任は取れる」
雨音が強まる。
俺は静かに言う。
「現場判断を尊重する」
若手が反発しかけるが、
レインが手を上げて止める。
「行け」
短い言葉。
通信が切れる。
会議室には、計算式が残る。
総救出数は、理論上減る。
だが、三名の顔は、
今この瞬間にある。
数時間後。
> 三名救出
> 別地区で二名、救助遅延
数字は、複雑だ。
総数は最大ではない。
だが、三名は生きている。
レインは、静かに言う。
「効率は、常に正義ではない」
俺は答えない。
成り上がりは、
最適解を選び続ける物語ではない。
**最適でない選択を、
それでも引き受ける物語だ。**
雨は、まだ止まらない。
数字は更新され続ける。
だが、今夜、
三名は生きている。
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