第78話 現場の声
通信は、途切れ途切れだった。
> 南西地区、堤防決壊
> 住宅地浸水
> 避難遅れ、多数
数は出ない。
映像も断片的。
会議室の地図に、赤い印が増えていく。
「優先順位を」
若手官僚が言う。
「救助隊をどこに集中させるか、決めなければ」
「被害規模が不明です」
「正確な推計が必要です」
レインの声は、まだ中央にいる。
その時、強いノイズの後、通信が繋がる。
「――中央か」
低く、荒い声。
「南西救護隊、指揮官ルカ・フェルだ」
背景に水音と怒号。
「被害推計は?」
レインが即座に問う。
「推計は後だ」
ルカの声は短い。
「今は人を動かせ」
「どの地区が最優先か、数値を」
「見れば分かる」
「老人施設が沈む」
沈黙。
地図上の数字は、まだ閾値を超えていない。
「確証は?」
若手が言う。
「確証を待てば沈む」
切れるような言葉。
俺は口を開く。
「ルカ、現場判断で動け」
「了解」
通信が途切れる。
会議室に、静寂が落ちる。
「中央の指示なしで動かせば、
後で検証が困難になります」
レインが言う。
「生きていれば、検証できる」
短い答え。
雨音が窓を打つ。
数字は、まだ整っていない。
だが、現場は動いている。
夜更け。
断片的な報告が届く。
> 老人施設、全員救出
> 別地区で二名不明
二名。
小さな数字。
だが、重い。
「救える人数を計算すべきです」
若手が言う。
「効率的な配置を」
ルカの声が再び入る。
「効率はいい」
「だが、今は近いところから引き上げる」
「それでは偏る」
「偏る?」
ルカが短く笑う。
「水は平等に来ない」
通信が切れる。
レインは、机に手を置く。
「……止まる暇がない」
その言葉は、自分に向けたものだった。
第5章で作った“止まる場所”。
だがここには、
止まる時間がない。
俺は、静かに言う。
「余白は、場所で意味が変わる」
誰も答えない。
成り上がりは、
整った制度を作る物語ではない。
**整わない現場で、
それでも壊れない何かを探す物語だ。**
雨は、まだ止まない。
数字は、遅れて追いつこうとしている。
だが、
命は、待ってくれなかった。
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