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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 蒼野湊


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第72話 止まる場所

 手紙は、二通目が届いた。


> 兄は国外へ行きました

> こちらでは挑戦する場所がないと

> 言っていました

> それも、正しい選択だったのでしょうか


 ミナ・エルディア。


 責める言葉はない。

 だが、問いは鋭い。


 午前。

 制度局の空気は重い。


 若手はレインを囲み、擁護する。


「全件通せば財政が持たない」

「制度は感情で動かせない」

「国外成功は偶然の可能性もある」


 偶然。


 確率で片づけられる言葉。


 レインは、否定も肯定もしない。


 午後。

 再評価班の設置案が提出される。


「高速基準は維持」

「ただし、象徴的案件のみ再審査」


 象徴的。


 曖昧な基準だ。


「誰が象徴を決める?」

 俺が問う。


「議会と制度局の合同判断で」


「政治が入るな」


 沈黙。


 政治が入れば、

 速度は落ちる。

 だが、挑戦は残る。


 レインは静かに言う。


「……止まる場所を、作る」


 誰に向けた言葉でもない。


「基準は必要です」

「だが、基準の外で一度だけ考える時間を持つ」


 若手が反発する。


「それでは線引きが曖昧になる」

「例外が増える」


「例外は増やさない」

 レインは首を振る。


「止まる回数を、制度化する」


 制度化。


 速度と余白の妥協点。


 夜。

 レインが、静かに言う。


「速度を落とせば、私は批判されます」


「そうだろうな」


「落とさなければ、挑戦は減る」


「そうだろう」


 彼は、初めて目を閉じる。


「私は、勝ちたかった」


「まだ負けていない」


「ですが……王座に近づきすぎた」


 王座。


 その言葉を、彼が使った。


 俺は、何も言わない。


 決めるのは、彼だ。


 成り上がりは、

 速く登る物語ではない。


 **登る途中で、

 立ち止まれるかどうかの物語だ。**


 そして今。


 制度はまだ回っている。


 だが、その中に、

 初めて“止まる場所”という言葉が生まれた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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