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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 蒼野湊


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第70話 正しい却下

 却下通知は、簡潔だった。


> 本申請は現行基準に照らし

> 収益予測の不確実性が高く

> 優先順位は低いと判断する


 丁寧で、冷静で、正確。


 数字も添えられている。

 投資回収期間。

 波及効果の推計。

 比較対象との効率差。


 どれも、間違っていない。


 午前。

 その申請書類が、再び机に置かれた。


「……国外で採用されたようです」


 若い事務官が、報告書を差し出す。


 隣国の農業改良計画。

 見覚えのある図面。

 見覚えのある簡易構造。


 地方の若手技術者が出した、

 低コスト灌漑改良案。


 当時の評価は――


 回収不透明。

 効果発現まで時間がかかる。

 他案件優先。


 基準通りの却下。


「国外で実証成功」

 事務官の声がわずかに沈む。

「導入面積、拡大中」


 会議室は、静まり返る。


「……結果論だ」

 誰かが言う。


「当時の基準では合理的だった」


 正しい。


 数字に照らせば、

 却下は妥当だった。


 午後。

 議会で話題に上がる。


「王国発の技術が国外で花開いた」

「なぜ支援しなかったのか」


 レインの名が出る。


 彼は、淡々と答える。


「当時の基準では優先度が低かった」

「判断は合理的です」


 非難の声と、擁護の声。


「挑戦を切ったのでは」

「制度が冷たすぎる」

「いや、基準を守っただけだ」


 割れる。


 夜。

 地方から一通の手紙が届く。


 申請者の妹、ミナ・エルディア。


> 却下は正しかったのですよね

> 兄はそう言いました

> でも、挑戦は終わりました

> それも、正しかったのでしょうか


 短い文面。


 感情的ではない。

 責めてもいない。


 ただ、問いだけが残る。


 レインは、その写しを読み、

 机に置いた。


「基準は、守られました」


「そうだな」

 俺は答える。


「では、何が問題ですか」


 彼は、本気で問うている。


「問題はない」


 それが事実だ。


「だが」

 俺は、静かに続ける。


「正しい却下にも、責任はある」


 レインは、わずかに眉を寄せる。


「間違っていない判断に、

 責任が?」


「挑戦が終わるという結果に、

 責任は発生する」


 沈黙。


 数字は壊れていない。

 制度も守られた。


 だが、

 一つの可能性は、止まった。


 成り上がりは、

 間違いを減らす物語ではない。


 **正しさが何を終わらせるかを、

 見逃さない物語だ。**


 そして今。


 却下は、正しかった。


 だがその正しさは、

 静かに、

 一つの未来を閉じていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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