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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 蒼野湊


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第69話 王座の影

 再評価請求は、週を追うごとに増えた。


 爆発的ではない。

 だが、連続している。


 処理効率は、まだ落ちていない。

 改善曲線も維持されている。


 それでも、

 会議室の空気は変わり始めていた。


「……再評価の専任班を設けるべきでは」

 若手官僚の一人が言う。


「本体の速度を落とさないために」


 合理的な提案だ。


 止まれないから、

 止まる部署を分ける。


 レインは、即座に頷く。


「良い案です」

「全体効率を維持できます」


 俺は、静かに問いかける。


「再評価が増え続けたら?」


「班を拡充します」


「拡充し続けたら?」


 沈黙。


 速度を守るために、

 例外を別枠に積み上げる。


 それは、王座の構造だ。


 正しさは中央に。

 異論は周辺に。


 午後。

 現場ヒアリングの続報。


> 基準に従う方が安全

> 裁量は責任が重い

> 再評価に回せばよい


 安全。


 その言葉が増えている。


 安全は、

 挑戦を減らす。


 挑戦が減れば、

 間違いも減る。


 だが、

 発見も減る。


 夜。

 レインが、一人で帳簿を見ていた。


「……想定より、再評価の増加が早い」


 独り言のように言う。


「想定していたのか」


「ゼロではないと思っていました」

「ですが、この速度は……」


 彼は、言葉を探す。


「止めますか」

 俺は聞く。


 彼は、すぐに答えない。


 視線は、改善曲線に固定されたままだ。


「今止めれば、勢いが失われます」


「続ければ?」


「歪みが増える可能性はあります」


 可能性。


 それを、彼は初めて口にした。


「王座に座る気はあるか」

 俺は、静かに問う。


「王座?」


「速度を守るために、

 異論を周辺に追いやる構造だ」


 レインは、ゆっくりと首を振る。


「私は、王になりたいわけではない」


「だが、仕組みは王を作る」


 沈黙。


 若手官僚の歓声が、廊下の向こうで聞こえる。


「過去最高の効率だ」

「北方にも劣らない」


 北方。


 その名が、軽く使われるようになった。


 レインは、帳簿を閉じる。


「……速度を落とせば、

 支持は減ります」


「落とさなければ?」


「歪みが増える」


 彼は、初めて迷っている。


 成り上がりは、

 王座に座ることではない。


 **王座の影を見た時に、

 降りられるかどうかだ。**


 そして今。


 速度は、まだ維持されている。


 だが、

 影は、はっきりと伸びていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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