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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 蒼野湊


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第67話 沈黙の増加

 異変は、音を立てなかった。


 数字は、なお改善している。

 処理速度も、支出も、目標達成率も。


 だが――

 会議の時間が、短くなっていた。


「本日の議題は以上です」


 確認も、追及も、深掘りもない。

 決裁は滑らかに進む。


 若手官僚は満足している。

 迷いがないのは、快適だ。


 午後。

 統計補助の細目に目を通す。


 再申請率、微増。

 取り下げ率、緩やかな上昇。


 いずれも、全体に対しては小さい。

 “軽微”。


 だが、推移は連続している。


「……気にしすぎでは?」

 若い事務官が言う。


「全体効率は過去最高です」


「そうだな」


 否定はしない。


 だが、帳簿の端に、

 小さな空白が増えている。


 質問欄の未記入。

 異論の記録なし。

 保留案件ゼロ。


 保留がゼロ。


 本来あり得ない数字だ。


 夕方。

 現場から、匿名の内部メモが届く。


> 判断基準は明確

> だが、異議を出すと処理が遅れる

> 結果が出ている以上、口を出しにくい


 短い。

 だが、重い。


 レインに見せる。


「現場の感情でしょう」

「効率が上がれば、摩擦は減る」


「摩擦は、常に悪いか?」


「過度な摩擦は、害です」


 彼は迷わない。


 正しい。

 だが、問いが残る。


「摩擦がゼロの組織は?」


 レインは、わずかに沈黙する。


「理想に近い」


「違う」


 俺は、静かに言う。


「摩擦がゼロの組織は、

 **誰も逆らわない組織だ**」


 沈黙。


 彼は視線を逸らさない。


「逆らう必要がないなら?」


「必要は、いつも後から来る」


 夜。

 帳簿を閉じる。


 成功は続いている。

 否定する材料は、まだない。


 だが、

 沈黙が増えている。


 沈黙は、数字に出ない。


 成り上がりは、

 声を集めることではない。


 **声が減った時に、

 それを異常と感じられるかどうかだ。**


 そして今。


 制度は、かつてないほど滑らかだ。


 だが、

 滑らかさの代わりに、

 何かが静かに消えている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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