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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 蒼野湊


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第65話 削られた余白

 成功は、拡張された。


 レインの高速モデルは、

 別の二部署へ。

 さらに一つ。

 さらに一つ。


「標準化しましょう」


 誰かが言った。

 その言葉に、ほとんど反対は出なかった。


 標準。

 それは、安心の言葉だ。


 午前。

 定例報告。


「全体平均処理日数、前年比二割減」

「不要支出、継続的に圧縮」

「現場の混乱報告、減少傾向」


 減少。


 俺は、その欄に目を止める。


「混乱報告が減った理由は?」


 質問は、静かに落ちる。


 レインが答える。


「判断基準が明確になったためです」

「迷いが減り、申請も整理された」


「整理、か」


 確かに。

 申請は減っている。


 だが。

 減り方が、均一すぎる。


 午後。

 若手官僚たちの議論が、耳に入る。


「反対意見が出ないのは、良いことだ」

「効率が上がっている以上、議論はコストだ」


 議論はコスト。


 正しい。

 だが、その言葉が広がり始めている。


 夜。

 執務室で、レインと向き合う。


「質問欄の記載が減っている」


「必要性が薄いからです」


「それは、誰が判断している?」


「現場です」


「現場が、書かなくなったのでは?」


 レインは、少しだけ黙る。


「成果が出ている限り、不満は出ません」


「不満と疑問は違う」


 沈黙。


「あなたは、余白を守りたい」

 レインが言う。


「だが、余白は迷いを生む」

「迷いは、遅れを生む」


「余白は、止まる場所だ」


「止まる必要がないなら?」


 俺は、帳簿を開く。


 改善曲線は、まだ上を向いている。

 否定する材料はない。


 だが、別の欄。


 小さな数字。

 申請取り下げ件数。


 増えている。


「これは?」


「基準に満たないと判断したのでしょう」


「誰が?」


「……現場が」


 判断が早くなると、

 選択肢は減る。


 減った選択肢は、

 報告されない。


 静かな削減。


 余白が、薄くなっていく。


 若手官僚の声が、廊下に響く。


「北方ほどではないが、悪くない」

「うちは、うまくやれている」


 うまくやれている。


 それが、一番危うい。


 成り上がりは、

 成果を出すことではない。


 **成果が出ている時に、

 何が削られているかを見ることだ。**


 窓の外は、静かだ。


 だが、室内の空気は、

 少しずつ薄くなっている。


 まだ、誰も苦しくはない。


 だからこそ、

 気づきにくい。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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