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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 蒼野湊


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第64話 速い成果

 結果は、三週間で出た。


「……改善率、想定以上です」


 報告書を読み上げる声は、隠しきれない高揚を含んでいる。


 対象部署の処理速度は向上。

 未処理案件は半減。

 支出も圧縮。


 グラフは美しい。

 線は迷いなく右肩上がりだ。


「ほら」

 若手官僚の一人が、小さく言う。

「やはり、速さは正義だ」


 レインは、誇らしげではない。

 むしろ、冷静だ。


「検証は継続します」

「短期成果は確認できましたが、長期影響は未確定です」


 形式上の慎重さは守っている。

 だが、空気は決まっていた。


 ――成功。


 午後。

 別の部署からも、同様の試行希望が出る。


「我々も導入したい」

「質問欄は、最低限で」


 “最低限”。


 言葉が、静かに削られていく。


 執務室に戻ると、若い事務官が言った。


「……勢いが戻ってきましたね」


「そうだな」


 窓を閉じた後の停滞は、もうない。

 代わりに、加速がある。


 夜。

 レインが報告に来る。


「想定通りです」

「現場の迷いが減った分、決断が早くなりました」


「質問は?」


「形式は残しています」

「ですが、実質的な異論はほぼありません」


「ほぼ?」


「効率が上がっている以上、反対しづらい」


 俺は、帳簿を開く。


 数字は確かに改善している。

 否定する根拠はない。


「異論が出ない理由は?」


「成果が出ているからです」


 即答だった。


「成果が出続ければ?」


「定着します」


「成果が止まったら?」


 レインは、わずかに黙る。


「その時は、見直します」


「質問が残っていれば、な」


 沈黙。


 彼は、目を逸らさない。


「あなたは、成功を疑いすぎです」


「疑わない成功は、疑えなくなる」


 静かな応酬。


 だが、今回の空気は彼に傾いている。


 若手は彼を囲み、

 改革の次段階を議論している。


 俺の席は、少し離れている。


 それでいい。


 成り上がりは、

 常に中心にいることではない。


 **中心が動いた時に、

 どこまで許すかを決めることだ。**


 帳簿を閉じる。


 速い成果は、甘い。


 甘さは、広がる。


 だが、甘さが消えた瞬間、

 何が残るのか。


 それを確かめるのは、

 まだ、少し先だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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