第60話 揺り戻しの声
王都に戻ってきたのは、外圧だけではなかった。
「……やはり、危険ではないか」
評議会の一角で、そんな声が漏れる。
小さく、だが確実に増えていた。
「他国で混乱が起き」
「別の国では、数字が異論を潰している」
「我々も、同じ道を辿るのでは?」
それは、もっともな不安だった。
午前。
非公式の意見交換会。
議題は表向き別だが、
実際には一つに集約されている。
――このやり方は、本当に安全なのか。
「我々は、危ういものを生み出したのでは」
年配の官僚が言う。
「数字は便利だが、鋭すぎる」
「使い方を誤れば、統治を壊す」
視線が、自然と俺に集まる。
責める目ではない。
だが、距離を測る目だ。
「……どう思う?」
誰かが、慎重に聞いた。
「危険です」
俺は、即答した。
ざわめきが走る。
「だからこそ、線を引いています」
「国内では、検証と質問を残した」
「国外では、それを渡していない」
沈黙。
「だが、それでも」
別の声が続く。
「外で起きた失敗は、我々の評判を落とす」
「国内でも、揺り戻しが起きかねない」
揺り戻し。
それは、改革が進んだ証でもある。
午後。
執務室に、一人の男が訪れた。
ヴァルド。
かつて、制度改革の最前線に立ち、
今は一歩引いた場所にいる人物だ。
「……久しぶりだな」
彼は、静かに言った。
「ええ」
俺は立ち上がらない。
彼も、座らない。
「外で、面倒なことになっているらしい」
「北方の話も聞いた」
「はい」
「君は、止めなかった」
「教えなかった」
責める口調ではない。
確認だ。
「それで、正しいと思っているか?」
「思っています」
俺は答える。
「だが」
ヴァルドは、視線を外す。
「王国内では、揺り戻しが始まる」
「『やはり危険だ』という声は、必ず強くなる」
「分かっています」
「その時、君はどうする?」
「また、数字で押し返すか?」
その問いに、俺は首を振った。
「押し返しません」
「**押し返せる数字は、もう危険です**」
ヴァルドは、わずかに目を細めた。
「……なるほど」
「君は、次の段階に入っている」
彼は、短く息を吐く。
「私はな」
「数字を遅らせる役目だった」
「君は」
視線が戻る。
「**数字を置いていく役目だ**」
置いていく。
守るでも、広めるでもない。
「嫌われるぞ」
ヴァルドは、淡々と言った。
「今より、もっと」
「承知しています」
嫌われる覚悟は、
ここまで来た時点で済んでいる。
夕方。
評議会のまとめが回る。
> 当面、改革の国外展開については慎重を期す
> 国内制度についても、検証体制を再確認する
止めない。
だが、進め方は変わる。
それが、揺り戻しの正体だった。
夜。
帳簿を閉じる。
揺り戻しは、失敗ではない。
**制御しようとする反応**だ。
成り上がりは、
一方向に進み続けることじゃない。
**戻ろうとする力を、
壊さずに受け止められるかどうかだ。**
そして今。
王国は、揺れている。
前にも、後ろにも。
その中心に、
俺の名前は、もう置かれていなかった。
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