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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 蒼野湊


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第59話 数字の王座

 知らせは、夜明け前に届いた。


> 他国情勢速報

> 北方大国にて新制度導入

> 行政効率の大幅改善を確認


 北方大国。

 軍事と資源を持つ国だ。


「……成功していますね」

 若い事務官が、報告書を読みながら言う。


「している」

 俺は、否定しなかった。


 数字は、嘘をついていない。


 徴税率の改善。

 支出の削減。

 命令系統の単純化。


 すべてが、迅速だ。

 迷いがない。


 午後。

 詳細資料が回ってくる。


 改革の説明文は短い。

 代わりに、数値が多い。


「反対意見は?」

 俺が聞くと、事務官は首を振った。


「数字で否定されています」

「効率が落ちる、の一点で」


 効率。


 それは、議論を終わらせる言葉だ。


 議論が終われば、

 判断は早くなる。

 早くなれば、

 間違っていても止まらない。


 夕方。

 外務局の分析会。


「北方は、数字を“証明”として使っています」

 分析官が言う。


「反対派は、非合理と見なされる」

「数字に逆らう=国益に反する、という構図です」


 誰かが呟く。

「……強いですね」


「強い」

 俺は、静かに同意した。


 数字を王座に置いた国は、強い。

 だが――

 王座は、一つしかない。


 夜。

 帳簿を開き、北方の資料を見る。


 猶予期間は、存在しない。

 失敗事例は、記載されていない。


 質問欄も、ない。


 数字は整然としている。

 だが、整いすぎている。


「……異論を、許していない」


 誰に言うでもなく、呟く。


 数字は、本来、議論の始まりだ。

 だが王座に置かれた瞬間、

 議論は不要になる。


 正しさが、決定になる。

 決定は、命令になる。


 それでも、国は回る。

 むしろ、よく回る。


 だからこそ、止まらない。


 若い事務官が、不安そうに言った。

「これも……成功、ですよね」


「短期的にはな」

 俺は、帳簿を閉じる。


「だが、代償は遅れて来る」


「どんな?」


「**質問できない国は、

 失敗を学習できない**」


 成功は続く。

 しばらくは。


 だが、間違えた瞬間、

 誰も止められない。


 成り上がりは、

 王座に立つことじゃない。


 **王座に置かれた正しさが、

 どれほど危ういかを、

 知っていることだ。**


 そして今。


 北方大国では、

 数字が王になった。


 人は従い、

 国は加速し、

 異論は静かに消えていった。


 ――まだ、

 成功という名のままで。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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