第57話 責任の名前
通達は、外務局経由で届いた。
> 外交照会
> 南方小国における制度改革について
> 本王国の関与の有無を確認されたし
文面は丁寧だ。
だが、行間ははっきりしている。
――責任は、どこにあるのか。
「来ましたね」
若い事務官が、紙を見つめたまま言う。
「ああ」
俺は頷いた。
壊れ始めれば、
次に探されるのは“名前”だ。
誰が考えたのか。
誰が教えたのか。
誰のせいなのか。
午後。
外務局との合同会議。
「先方は、こう言っています」
担当官が読み上げる。
「『王国の改革手法を参考にした結果、混乱が生じた』と」
「参考にした、か」
俺は短く息を吐く。
便利な言葉だ。
責任を曖昧にする。
「本王国としての見解は?」
視線が集まる。
俺は、資料を一枚開いた。
「本王国は、制度運用の数値を公開したのみです」
「手順、導入時期、適用範囲については、一切指示していません」
事実だけを並べる。
感情は入れない。
「……しかし」
別の官僚が言葉を挟む。
「公開した以上、影響は予見できたのでは?」
正しい指摘だ。
だからこそ、答えは一つしかない。
「予見はできました」
俺は、否定しなかった。
「だから、教えませんでした」
会議室が静まる。
「教えなかった、とは?」
「方法を渡せば、責任も渡る」
俺は、淡々と続ける。
「責任を引き受ける覚悟がない限り、方法は渡せない」
「それは、王国としても同じです」
沈黙。
誰も反論しない。
だが、納得もしていない。
夜。
外務局から、非公式な声が届く。
「……あなたの名前が、向こうで出ています」
「改革の設計者として」
「でしょうね」
俺は驚かない。
名前は便利だ。
矛先を集める。
「釈明の声明を出しますか?」
「出しません」
「では、どう対応を?」
「事実確認だけで十分です」
「教えていない。指示していない」
「それ以上は、感情になります」
感情は、外交を壊す。
数字より早く、燃え広がる。
執務室に戻ると、
若い事務官が不安そうに言った。
「……悪者に、されませんか」
「される」
俺は即答する。
「だが、それでいい」
名前が出るということは、
線が引かれるということだ。
ここまではこちら。
ここから先は、向こう。
その線がなければ、
数字は永遠に利用される。
成り上がりは、
賞賛を集めることじゃない。
**責任が欲しがられた時に、
渡す範囲を間違えないことだ。**
そして今。
国境の向こうで、
失敗は名前を探している。
その名が呼ばれるたび、
俺は、同じ言葉を返すだけだった。
――教えていない。
――決めたのは、そちらだ。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




