第53話 教えない理由
視察の前夜。
王都の一角にある、
小さな会議室。
飾り気はない。
警備も最低限だ。
「……明日、
何を説明されるご予定ですか?」
外務局の担当官が、
慎重に聞いた。
「何も」
俺は、即答した。
一瞬、
沈黙が落ちる。
「……資料の説明も?」
「しません」
「質疑応答は?」
「求められれば、
数字の読み方だけ」
担当官は、
言葉を探す。
「……それでは、
誤解される可能性が」
「承知しています」
俺は、頷く。
「誤解されない形で
伝えられるものは、
すでに公開されています」
それ以上は、
“教える”ことになる。
夜。
執務室で、
帳簿を閉じる。
数字の並び。
注記。
欠損。
どれも、
完成していない。
だが――
完成していないからこそ、
他人が触れる。
外から来る者は、
成果を欲しがる。
手順を知りたがる。
再現性を求める。
だが、
それを渡した瞬間、
責任は消える。
方法だけが残り、
前提は捨てられる。
それを、
もう一度
見てきた。
夜更け。
若い事務官が、
ぽつりと言う。
「……不親切だと
思われませんか?」
「思われます」
「それでも?」
「不親切でない正しさは、
すぐ武器になる」
静かな沈黙。
窓の外では、
王都の灯りが揺れている。
国内で起きた歪みは、
まだ癒えていない。
それを、
外に持ち出す理由はない。
成り上がりは、
教えることじゃない。
教えない選択を、
引き受けることだ。
そして今。
明日、
世界は
数字を見に来る。
だが――
答えは、
どこにも置かれていなかった。
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