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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 蒼野湊


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43/53

第43話 成功の内側で

 数字は、

 まだ成功を示していた。


 削減率は維持。

 達成速度も落ちていない。


「……順調ですね」


 評議会の一人が、

 満足そうに言う。


「初動で、

 ここまで結果が出るとは」


 拍手はない。

 だが、

 安心した空気がある。


 俺は、

 何も言わなかった。


 数字は、

 嘘をついていない。


 ただ――

 全部を語っていないだけだ。


 午後。


 一通の、

 短い報告が届く。


地方事務所より

事業継続を断念する

との連絡あり


 理由欄は、

 空白。


 珍しくもない。

 制度改革では、

 よくあることだ。


 だが、

 同じ形式の報告が、

 その週だけで

 三件、四件と続いた。


「……多くないですか?」


 若い事務官が、

 首を傾げる。


「数字上は、

 問題ありません」


 それが、

 逆に不自然だった。


 断念が出るなら、

 初期混乱率が跳ねる。


 だが、

 報告上は、

 “静か”すぎる。


「……切られた、

 というより」


 俺は、

 言葉を選ぶ。


「諦めた、

 と書かせている」


 誰に?

 という問いは、

 出なかった。


 夕方。


 現地から、

 個人的な書簡が届く。


 公文書ではない。

 だからこそ、

 書かれている。


制度は理解した

だが、準備期間がない

こちらとしては

判断する前に

選択肢が消えた


 署名はない。


 だが、

 文面は冷静だった。


 怒りではない。

 混乱でもない。


 疲弊だ。


「……表には出ませんね」


 若い事務官が、

 低い声で言う。


「出ません」


 俺は、頷く。


「数字は、

 “出なかったもの”を

 失敗に数えない」


 だからこそ、

 危険だ。


 夜。


 模倣者の報告書を、

 もう一度見る。


 成功事例。

 改善率。

 迅速な判断。


 そこには、

 断念した事業は載らない。


 始まらなかった計画も。

 声を上げなかった人も。


 数字は、

 声を上げたものだけを拾う。


 成り上がりは、

 結果を誇ることじゃない。


 結果の外に落ちたものを、

 無視しないことだ。


 そして今。


 王都の成功は、

 確かに正しい。


 だが――

 その内側で、

 静かに、

 消えていく選択肢があった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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