第40話 危険な正しさ
その部屋は、
もう使われていなかった。
財務評議官用の執務室。
広く、静かで、
今は誰もいない。
ヴァルドは、
窓際に立っていた。
「……ここに立つのも、
今日が最後だ」
声には、
悔しさも、
安堵もない。
ただ、
事実だけがあった。
「左遷ですか?」
「いいや」
彼は、
首を振る。
「整理だ」
責任を問われない代わりに、
役割を減らされる。
それが、
今回の結末だった。
「君は、
満足か?」
唐突な問い。
俺は、
少し考えて答える。
「いいえ」
「だろうな」
ヴァルドは、
苦笑した。
「君のやり方は、
正しい」
「だが――」
振り返り、
こちらを見る。
「危険だ」
何度も聞いた言葉だ。
だが、
今日のそれは、
重みが違った。
「正しさは、
人を黙らせる」
「説明できないものを、
切り落とす」
「それは、
統治にとって
強すぎる」
俺は、
否定しなかった。
「だから、
君は孤立する」
「だが――」
一拍置く。
「必要だ」
それが、
彼なりの結論だった。
「私の役目は、
正しさを
遅らせることだった」
「君の役目は、
正しさを
止めないことだ」
窓の外に、
王都の屋根が並ぶ。
「君の数字は、
いずれ――
私のような者を
不要にする」
「だが」
視線を戻す。
「その時、
王国は
不安定になる」
「それでも、
進むか?」
最後の問いだった。
「進みます」
俺は、
即答した。
「止めれば、
必ず歪みが溜まる」
ヴァルドは、
ゆっくりと頷いた。
「……なら、
覚えておけ」
低い声。
「数字は、
人を選ばない」
「だが、
人は、
数字の使い手を選ぶ」
それが、
彼の警告だった。
部屋を出る前、
ヴァルドは言った。
「君は、
英雄にならない」
「その代わり――」
少しだけ、
口元を緩める。
「消せない存在になる」
扉が閉まる。
廊下には、
もう誰もいない。
成り上がりは、
頂点に立つことじゃない。
消せない位置に、
居続けることだ。
そして今。
俺は、
その場所に
立たされていた。
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