第38話 耐えられなかったもの
数字は、
攻撃しない。
だが――
耐えることを、強いる。
公開から三日。
王都は、
目に見えて変わった。
「……説明が、
合わない」
財務局の一室で、
誰かが呟く。
特例が積み上がった理由。
解除されなかった経緯。
例外が例外でなくなった瞬間。
どれも、
“正しい判断”だった。
だが、
同時に並べられると、
言葉が足りなくなる。
「この地域は、
なぜ三十年も継続?」
「前例があったからです」
「その前例は?」
「……そのまた前例です」
会話が、
そこで止まる。
誰も、
間違っていない。
だが、
誰も、
説明できない。
午後。
別の部署で、
同じ光景が起きる。
「混乱の原因は、
修正後の運用だと
報告されていましたが……」
「……数字を見る限り、
混乱は限定的です」
「むしろ、
過去の支出の方が……」
言葉が、
途切れる。
それ以上、
言えない。
数字は、
誰の味方もしない。
ただ、
全体を一枚にする。
夕方。
非公式の会合が、
いくつも開かれた。
結論は、
どれも似ている。
「このままでは、
制度そのものが、
説明不能になる」
説明できない制度は、
統治に向かない。
それだけのことだ。
夜。
ヴァルドが、
一人で資料を見ていた。
俺は、
声をかけない。
彼は、
やがて言った。
「……耐えられなかったのは、
数字じゃない」
「我々だ」
俺は、
否定しなかった。
数字は、
変わっていない。
変わったのは、
見る側だ。
「君は、
制度を壊したつもりか?」
ヴァルドが、
視線を向ける。
「いいえ」
俺は、答える。
「壊れないものを、
残しただけです」
沈黙。
「壊れたのは、
説明できない部分だ」
彼は、
ゆっくりと頷いた。
その夜。
王都のあちこちで、
同じ判断が下される。
特例の見直し。
期限の設定。
解除条件の明文化。
誰かの命令ではない。
数字に耐えられなくなった結果だ。
成り上がりは、
勝つことじゃない。
説明できる形だけが、
残るところまで
待つことだ。
そして今。
王国の制度は、
静かに――
自分自身を、
削り始めていた。
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