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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 蒼野湊


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第37話 公開

 その決断は、

 会議の場では行われなかった。


 根回しも、

 事前説明も、

 しない。


 ただ、

 公開した。


 王都の公式掲示網に、

 一つの文書が載る。


補助金制度運用点検

全件データ公開


 内容は、

 単純だった。


 過去三十年分の

 補助金支出。


 特例件数。

 解除実績。

 地域別の推移。


 そして――

 自分が関わった修正後の数字も、

 すべて含めた。


 成功例だけではない。


 混乱が出た地域。

 想定より回復が遅れた事業。

 反発が強かった施策。


 隠さない。


 言い訳もしない。


 ただ、

 並べる。


 午前中。


 最初に反応したのは、

 現場だった。


「……これ、

 全部、出てるぞ」


「前の制度の数字も?」


「修正後も……」


 ざわめきが、

 王都を走る。


 昼。


 次に動いたのは、

 評議会だった。


「誰の判断だ」


「誰が、

 これを許可した」


 だが、

 誰も止められない。


 数字は、

 すでに外に出ている。


 午後。


 空気が、

 変わり始めた。


「……あれ?」


「特例、

 この地域だけ

 異常に多くないか?」


「解除、

 一度もされてない?」


 今まで、

 “個別事情”として

 処理されていたものが――

 一枚の表で、

 同時に見えてしまった。


 噂は、

 形を変える。


「混乱の原因、

 数字じゃなくて……」


「前の制度の方が、

 よほど無理してたんじゃ……」


 誰も、

 主人公の名前を出さない。


 だが、

 責任の向きが、

 静かにズレていく。


 夕方。


 ヴァルドが、

 執務室を訪れた。


 怒ってはいない。

 だが、

 疲れた顔をしている。


「……全部、出したな」


「ええ」


「自分に不利な数字も」


「当然です」


 彼は、

 短く笑った。


「君は、

 逃げ道を

 自分から潰す」


「数字を出す以上、

 そうなります」


 沈黙。


「……もう、

 戻れないぞ」


「承知しています」


 夜。


 王都のあちこちで、

 同じ光景が繰り返される。


 帳簿を広げる者。

 黙り込む者。

 過去の判断を思い出す者。


 数字は、

 誰かを殴らない。


 だが。


 同時に見せられた瞬間、

 逃げ場は消える。


 成り上がりは、

 声を上げることじゃない。


 言い訳の余地を、

 先に消すことだ。


 そして今。


 王都は、

 気づいてしまった。


 作られた失敗よりも、

 はるかに大きなもの――

 長年、見ないふりをしてきた歪みに。


 この公開は、

 誰かを裁くためのものじゃない。


 だが。


 裁かれずに済む者は、

 もう、いない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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