第36話 作られた失敗
異変は、
数字より先に、
噂として広がった。
「……聞きましたか」
廊下で、
小声が交わされる。
「補助金の件で、
現場が混乱しているって」
「急な変更が原因らしい」
俺は、足を止めなかった。
噂は、
否定するほど広がる。
昼前。
正式な文書が、
机に置かれた。
一部地域において、
制度変更を巡る混乱が確認された
原因調査を行う必要がある
差出人は、
特定されていない。
だが、
狙いは明確だ。
「……混乱?」
若い事務官が、
困惑した声を出す。
「試験期間内で、
想定された範囲ですよね」
「そうだ」
俺は、資料を開く。
該当地域の数字。
支出。
事業進捗。
住民対応。
どれも、
想定内。
混乱と呼ぶには、
弱すぎる。
午後。
臨時の確認会が、
開かれた。
出席者は、
少ない。
だが、
“記録”は残る。
「現場から、
不安の声が上がっている」
「準備期間が短すぎたのでは」
「説明不足だった可能性は?」
誰も、
嘘は言っていない。
だが――
結論だけが、
誘導されている。
「今回の混乱は、
誰の責任か」
その問いが、
空気に浮かぶ。
俺は、
発言を待った。
誰かが言えば、
記録に残る。
だが、
誰も言わない。
だからこそ、
責任は、
最も目立つ者に落ちる。
「……数字の示し方が、
強すぎたのでは」
それは、
名前を出さない
指摘だった。
「一部の現場が、
“切られる”と誤解した」
誤解した、
という言葉が使われる。
誤解させた、
とは言わない。
会は、
曖昧なまま終わった。
だが。
翌日、
王都内に流れたのは――
一つの理解だった。
今回の混乱は、
数字重視の点検が
現場を萎縮させた可能性がある
名指しは、ない。
だが、
十分だった。
若い事務官が、
唇を噛む。
「……失敗に、
されますね」
「されない」
俺は、
静かに言った。
「されかけているだけだ」
失敗にするには、
証拠がいる。
そして――
証拠は、
数字だ。
夜。
俺は、
一つの決断をした。
これ以上、
内部だけで
説明はしない。
次は――
見せる。
数字を。
都合の悪いものも含めて。
成り上がりは、
責任を押し付けられないことじゃない。
責任を、
数字ごと
引き受けられるかどうかだ。
そして今。
王都は、
気づいていない。
この“作られた失敗”が――
自分たちの隠してきた歪みを、
すべて照らす火種になる
ということに。
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