第31話 守られたもの
修正案が回ってから、
王都の空気は、少しだけ変わった。
騒がしくはない。
だが、止まっていた歯車が、
きしみながら回り始めている。
「……申請が、戻っています」
若い事務官が、控えめに報告する。
「止まっていた地域からも?」
「はい。
“試験期間内なら”という条件付きですが」
俺は、頷いた。
それでいい。
全面的な信頼はいらない。
動き出す理由があれば。
数日後。
最初の結果が、数字として現れた。
「……赤字拡大、止まっています」
「むしろ、
わずかですが、改善しています」
支出は減ったまま。
事業は、再開。
以前のような無秩序な膨張はない。
「……守られた、というべきでしょうか」
年配の官僚が、呟いた。
「何がだ?」
「事業です。
それと……現場の信頼も」
俺は、資料を見つめた。
守ったのは、
制度そのものじゃない。
選択肢だ。
切られるかもしれない。
だが、
いつ・どう切られるかは、
見えている。
それだけで、
人は動ける。
午後。
地方から、
一通の簡素な報告が届く。
試験期間の条件は厳しいが、
先が見えるため、対応可能
以前より、計画が立てやすい
称賛ではない。
感謝でもない。
だが――
現場の言葉だ。
ヴァルドが、
静かに言った。
「君の数字は、
人を切り捨てるためのものだと思っていた」
「今も、
切るために使います」
俺は、答える。
「ですが、
切られる側が準備できるなら
被害は、減ります」
彼は、しばらく黙っていた。
「……守ったな」
「いいえ」
俺は、首を振る。
「守れたのは、
“急落”だけです」
それで十分だった。
夜。
帳簿を閉じながら、
思う。
数字は、
未来を保証しない。
だが。
未来を考える余裕は、
作れる。
それが、
今日の成果だった。
成り上がりは、
すべてを変えることじゃない。
変わらずに済むものを、
見極められるかどうかだ。
そして今。
王国の制度は、
かろうじてだが――
自分で立ち続ける力を、
取り戻し始めていた。
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