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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 煤原ノクト


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第28話 正しさの置き場

 財務評議会は、

 静かに始まった。


 円卓。

 過度な装飾はない。

 声を荒げる者もいない。


 ここでは、

 感情よりも、

 前例と安定が尊ばれる。


「本日の議題は、

 補助金制度に関する点検報告です」


 司会役の官僚が、淡々と告げる。


 視線が、

 自然とこちらに集まる。


 俺は、立たない。

 ただ、資料を開いた。


「結論は出していません」


 最初に、そう言った。


「提案も、していません」


 ざわめきが、わずかに走る。


「提示したのは、

 特例の件数と、支出の偏りだけです」


 数値を、淡々と読み上げる。


 特定地域。

 特定事業。

 解除されない例外。


「制度は、

 正常に機能しています」


 ここで、年配の男が口を開いた。


 昨日、廊下で会った官僚――

 財務評議官、ヴァルド=エルディン。


「申請は正規。

 手続きも適正」


「違法性は、ありません」


 俺は、頷いた。


「その通りです」


 否定しない。


 だからこそ、

 彼は続きを言う。


「ならば、

 この資料は何を意味する?」


 声は、静かだ。


 だが、

 逃がさない問いだった。


「意味は、一つです」


 俺は、目を伏せて答える。


「全体が、見えていない」


 ざわつき。


「例外は、

 単体では問題になりません」


「だが、

 積み上がれば、

 制度そのものの性質を変えます」


 ヴァルドは、即座に返す。


「制度は、

 人の生活を守るためにある」


「数字の整合性だけを追えば、

 守れないものが出る」


 正論だ。


 俺は、否定しない。


「だから、

 私は“結論”を出していません」


「守るべきものが何か、

 まだ分からないからです」


 沈黙。


 別の評議官が、慎重に言う。


「だが、

 この一覧表が回った時点で、

 現場は揺れています」


「例外を受けてきた地域が、

 不安を抱いている」


 ヴァルドが、視線を向ける。


「君の数字は、

 人を追い詰める」


 真正面からの指摘。


「はい」


 俺は、認めた。


「追い詰めます」


 空気が、張りつめる。


「ですが――」


 一拍置く。


「数字は、追い詰める相手を選びません」


 誰かが、息を呑む。


「都合の良い嘘も、

 守るための嘘も、

 同じように壊します」


 ヴァルドは、黙って聞いている。


「君は、

 王国を危険に晒す気か?」


 その問いは、

 責任を試すものだった。


「危険は、

 すでにあります」


 俺は、淡々と答えた。


「見えていなかっただけです」


 長い沈黙。


 司会役が、ようやく口を開く。


「……本件は、

 継続審議とします」


 結論は、出ない。


 それでいい。


 評議会が終わり、

 人が散っていく。


 最後に残ったヴァルドが、

 静かに言った。


「君は、

 正しい」


 そして。


「だが、

 正しさは、

 統治においては

 劇薬だ」


 俺は、答えなかった。


 否定も、肯定も、しない。


 ただ、

 一つだけ確かだった。


 この対立は、

 誰かが間違っているから

 起きているわけじゃない。


 両立しない正論が、

 同時に存在しているだけだ。


 そして。


 その均衡を、

 数字が、

 静かに崩し始めている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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