第27話 嫌われる数字
翌日。
昨日まとめた一覧表は、
すでに複数の部署に回っていた。
俺が配ったわけじゃない。
ただ、必要なところに置いただけだ。
それでも。
「……これは、どういう意図だ?」
廊下で、声をかけられた。
振り返ると、
見覚えのない年配の官僚が立っている。
姿勢は崩れていない。
声も、荒れていない。
だが――
距離の取り方が、明らかに違う。
「意図はありません」
俺は、正直に答えた。
「数字を並べただけです」
「だが、
この表は“危険”だ」
即答だった。
「危険?」
「ああ」
官僚は、紙束を軽く叩く。
「これは、
誰かが間違っていると
示してしまう」
なるほど。
この人は、
もう気づいている。
「間違いがあるなら、
直せばいい」
俺が言うと、
官僚は小さく息を吐いた。
「若いな」
責める口調ではない。
「制度は、
正しさだけでは維持できない」
それは、
昨日までに何度も聞いた言葉だ。
「誰も、
悪意で例外を積み上げたわけじゃない」
「分かっています」
俺は、頷く。
「だから、
責めるつもりはありません」
官僚は、俺をじっと見た。
「……それが、
一番困る」
一瞬、沈黙。
「君は、
正義を振りかざしていない」
「革命を叫んでいるわけでもない」
「だが――」
官僚は、声を落とす。
「逃げ道を、消している」
ようやく、
本音が出た。
俺は、言葉を選んだ。
「逃げ道が必要なのは、
人です」
「制度には、
必要ありません」
官僚の目が、
ほんの少しだけ細くなる。
「……君は、
制度の側に立つのか」
「数字の側です」
俺は、淡々と答えた。
その答えを聞いて、
官僚は、はっきりと理解した顔をした。
「……そうか」
彼は、軽く会釈する。
「なら、
近いうちに
正式に話をしよう」
名前は、名乗らなかった。
だが、
去り際に一言だけ残した。
「数字は、
人を守るが――
同時に、
人を追い詰める」
それだけ言って、
廊下の向こうへ消える。
夕方。
若い事務官が、
不安そうに言った。
「……今の方、
財務評議官の一人です」
「そうか」
「お気をつけください。
あの方は……」
「分かってる」
俺は、書類を閉じた。
「数字を、嫌う人間じゃない」
嫌っているのは、
数字そのものじゃない。
数字が――
動かしてしまうものだ。
今日の一覧表は、
誰かを断罪するためのものじゃない。
だが、
誰かが守ってきた均衡を、
確実に揺らしている。
王都は、
昨日までと同じ顔で、
今日も動いている。
だが。
もう、
昨日とは違う。
数字は、
見られてしまった。
そして。
見た以上、
無視はできない。
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