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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 煤原ノクト


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第25話 王都の誤算

 王都で、その報告書が回ったのは、

 夕刻だった。


「……移転、か」


 監査局の一室で、

 一人の官僚が、資料を閉じる。


「大胆だな」


「いえ」


 別の官僚が、静かに否定した。


「大胆なのは判断ではありません」


「……どういう意味だ?」


「ためらいがない」


 数字。

 支出削減。

 持続性。


 どれも、筋が通っている。


 だが。


「普通は、

 ここで躊躇します」


「反発を恐れます」

「政治的に危険だと考えます」


 それを、

 この男は、しなかった。


「……つまり」


 年配の官僚が、低く言った。


「彼は、“評価”より

 “数字”を優先する」


 それは、

 官僚組織にとって――

 扱いづらい性質だった。


「便利ではある」


「だが、制御できない」


 誰かが、ぽつりと呟く。


 王都が欲しかったのは、

 成功例であって、

 基準を揺るがす存在ではなかった。


「次は、どうする?」


 沈黙。


「……様子を見るしかない」


「不用意に敵に回すのは、危険だ」


「だが、

 増えすぎるのも困る」


 結論は、曖昧だった。


 それが、誤算だった。


 一方、現地。


 俺は、いつも通り、

 帳簿を見ていた。


 王都がどう思ったかは、

 知らない。


 知る必要もない。


「……これで、

 この領地は終わりですか?」


 若い役人が、恐る恐る聞く。


「いや」


 俺は、首を振る。


「ようやく、

 始められる状態になった」


 延命ではない。

 幻想でもない。


 続けられる、現実だ。


 夜。


 王都からの書状が届く。


今回の巡察については、

一定の成果を確認した。

引き続き、次の案件を検討する。


 称賛はない。

 叱責もない。


 ただ、距離を取る文面。


 若い役人が、苦笑する。


「……評価、されてるんでしょうか」


「されている」


 俺は、静かに答えた。


「警戒という形で」


 それで十分だった。


 評価されすぎれば、

 使い潰される。


 警戒されるくらいが、

 ちょうどいい。


 窓の外。

 街道には、灯りが続いている。


 移転した人々。

 新しく集まった商人。


 誰も、俺を称えない。

 だが――

 数字は、確かに動いている。


 王都は、

 俺を便利な駒として扱うつもりだった。


 だが、気づいてしまった。


 この駒は、

 盤面そのものを変えかねないと。


 成り上がりは、

 拍手を浴びることじゃない。


 警戒される位置まで、

 静かに上がることだ。


 そして今。


 俺は、

 その場所に立っている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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