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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 煤原ノクト


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第24話 切った理由

 北側集落の移転方針を出してから、

 二週間。


 空気は、重かった。


 誰もが不満を抱え、

 誰もが口には出さない。


 だが――

 数字だけは、淡々と動いていた。


「……出ました」


 若い役人が、週次報告書を差し出す。


 俺は、黙って目を通す。


 支出。

 維持費。

 臨時対応費。


 そして――

 移転準備にかかる費用。


「……思ったより、低いですね」


 若い役人が、戸惑ったように言う。


「移転は一度きりだ」


 俺は、簡単に答えた。


「維持は、毎年続く」


 数字は、嘘をつかない。


 北側集落の支出を凍結したことで、

 領地全体の月次赤字は――

 一気に半減していた。


「……これほどとは」


 年配の役人が、声を失う。


「今まで、

 何に金を使っていたんでしょう」


「“続けているから”だ」


 俺は、帳簿を閉じた。


「理由が、

 それしかなかった」


 街道沿いの移転先では、

 別の変化が起きていた。


「……人が、集まってきています」


 商人が、驚いたように言う。


「道がいい。

 荷が、動かしやすい」


 元・北側集落の住民たちも、

 少しずつ、仕事を見つけ始めている。


 完全な成功じゃない。

 不満は、残っている。


 だが。


 生き残る選択肢は、増えた。


 役所に戻ると、

 年配の役人が、ぽつりと呟いた。


「……数字で見ると、

 否定しきれませんな」


「否定しなくていい」


 俺は、淡々と言う。


「これは、

 誇れる判断じゃない」


「ですが……」


「必要だった判断だ」


 王都へ送る中間報告。


 そこには、

 感想も、主張も書かない。


北側集落移転後

月次支出大幅減

領地全体の持続性改善

社会的摩擦は継続中


 それだけだ。


 王都は、

 この判断を

 評価するかもしれない。


 あるいは、

 危険視するかもしれない。


 どちらでもいい。


 数字は、

 すでに答えを出している。


 夜。


 若い役人が、静かに言った。


「……戻れませんね」


「何に?」


「全部を救える、

 っていう幻想に」


 俺は、窓の外を見た。


「幻想は、

 数字の前では、

 いつも負ける」


 だが。


 幻想があったからこそ、

 今まで耐えてきた人もいる。


 それを壊すのは、

 簡単な仕事じゃない。


 成り上がりとは、

 拍手を浴びることじゃない。


 納得されなくても、

 必要な判断を続けられるかどうかだ。


 そして今。


 この領地は、

 ようやく

 “続けられる形”になり始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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