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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 煤原ノクト


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第23話 救わないという選択

 最初に切ったのは、

 北側の集落だった。


 山に近く、道は細い。

 物流は滞りがちで、

 税収はほぼゼロ。


 それでも――

 支出だけは、毎年増えている。


「……なぜ、ここを?」


 若い役人が、声を震わせて聞いた。


「数字を見ろ」


 俺は、帳簿を指で叩く。


「この集落は、

 十年以上、赤字だ」


「ですが、住民が……」


「いる。

 だからこそ、切る」


 役人たちが、ざわつく。


「放棄するのですか!?」

「王都は、そんな判断――」


「放棄しない」


 俺は、はっきり言った。


「移す」


 沈黙。


「このまま維持すれば、

 この領地全体が沈む」


「だが、

 集落を移転させれば――」


 言葉を切り、続ける。


「救える数は、増える」


 正解じゃない。

 だが、現実的な選択だ。


 午後。


 北側集落で、説明の場を設けた。


 集まった住民の視線は、厳しい。


「つまり、

 俺たちを捨てるってことか」


 老人が、低く言った。


「捨てない」


 俺は、真正面から答える。


「この場所を、捨てる」


 怒号が飛ぶ。


「言葉遊びだ!」

「王都の都合だろう!」


 若い役人が、慌てて前に出ようとするが、

 俺は、手で制した。


「事実を話す」


 俺は、帳簿を開いた。


「この集落に使われている支出は、

 一人当たり、王都平均の三倍だ」


 ざわめき。


「だが、

 道が悪く、医療も届かない」


「このまま続ければ、

 十年後、この集落は自然消滅する」


 沈黙。


「移転先は、

 街道沿いに用意する」


「土地も、家も、

 最低限は保証する」


「これは、救済じゃない」


 一拍置く。


「生存のための移動だ」


 誰も、すぐには答えられなかった。


 怒り。

 不安。

 諦め。


 全部が、混じっている。


 夜。


 役所に戻ると、

 年配の役人が吐き捨てるように言った。


「あなたは、冷たい」


「そうだな」


 俺は、否定しなかった。


「英雄になりたいなら、

 ここには来ていない」


 帳簿を閉じる。


「これは、

 “誰もやりたがらない判断”だ」


 若い役人が、俯いたまま言う。


「……間違っていないと、

 言い切れますか?」


「言い切れない」


 俺は、正直に答えた。


「だが、

 何もしないよりは、マシだ」


 その夜、

 王都へ向けた中間報告を書いた。


 成功とは書かない。

 善意とも書かない。


 ただ、事実だけを書く。


北側集落は維持困難

領地全体を守るため、移転を提案

反発は大きいが、他に現実的選択肢なし


 王都がどう判断するかは、

 分からない。


 だが。


 数字は、

 この判断を支持している。


 成り上がりは、

 拍手を浴びることじゃない。


 嫌われ役を、引き受け続けられるかどうかだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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