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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 煤原ノクト


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第19話 数字が追いつく

 月次集計の日。


 役所の一室に、自然と人が集まっていた。

 誰かが呼んだわけじゃない。


 ただ――

 結果が出ると、皆が分かっていた。


「……出ました」


 若い役人の声が、少し震える。


 俺は、黙って頷いた。


 机の上に並べられたのは、

 先月と今月の比較表。


 派手じゃない。

 だが、はっきりしている。


「支出、前月比三割減」

「徴収効率、改善」

「滞納、減少傾向」


 誰かが、息を呑んだ。


「……黒字、ですか?」


「いや」


 俺は、首を振る。


「まだだ」


 だが。


「赤字じゃない」


 その一言で、空気が変わった。


 支出を止めただけ。

 増やしたわけじゃない。


 それでも――

 数字は、ここまで動いた。


「これ……

 助言者様が、いなくても回ってますよね」


 誰かが、ぽつりと呟いた。


 それが、核心だった。


 俺は、何も言わない。


 答えは、表に全部書いてある。


 その日の午後。


 王都監査局へ、正式な月次報告が送られた。


 数字のみ。

 言い訳も、主張も、添えない。


 数刻後。


 監査局の一室で、

 一人の官僚が報告書を睨んでいた。


「……これは……」


 “再現性なし”と判定した、

 その直後の数字。


「……失敗、だったか?」


 自分の判断を、

 誰よりも自分が疑い始める。


 別の官僚が、低く言った。


「個人の手腕では、ありませんね」


「……ああ」


 誰がいなくても、

 数字は、同じ方向に動いている。


 それはつまり。


 仕組みが、勝っている。


 夜。


 現地役所では、

 若い役人が、静かに言った。


「……もう、戻れませんね」


「何に?」


「前のやり方に」


 俺は、帳簿を閉じた。


「それでいい」


 改革とは、

 誰かが命令するものじゃない。


 戻れないと、現場が思った時点で完成する。


 翌朝。


 王都から、再び連絡が入った。


「……昨日の判断について、

 再確認を行いたい」


 声は、以前よりも慎重だった。


 俺は、短く答えた。


「どうぞ」


 数字は、もう揃っている。


 否定するには、

 遅すぎるほどに。


 失敗と断じられた改革は、

 今この瞬間――

 成功として、数字に刻まれていた。

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