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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 煤原ノクト


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第17話 止まった金、動いた現場

 支出凍結から、一週間。


 城下の様子は――

 思ったより、普通だった。


「……あれ?」


 倉庫街で、商人の一人が首を傾げる。


「前より、話が早いな」


「だな。

 変な確認も、急な追加費用も減った」


 以前は、

 誰にいくら払うのか分からない金が挟まっていた。


 今は、違う。


 仕事をする者と、

 金を受け取る者が、

 直接つながっている。


 城下の取引所。


 商人たちが、自然と集まり始めていた。


「助言者様に、文句言ってたけどよ」


「……正直、今のほうがやりやすい」


「余計な手数料、取られなくなったしな」


 誰も、大声では言わない。


 だが、確実に――

 評価は変わっている。


 役所でも、同じだった。


「この支出……必要ですか?」


「必要だ。

 理由も、説明できる」


「じゃあ、通します」


 それだけのやり取り。


 揉めない。

 止まらない。


 若い役人が、思わず言った。


「……今まで、

 何に時間を使ってたんでしょう」


 誰も、答えなかった。


 答えは、

 全員がもう分かっている。


 夕方。


 臨時の週次報告が、まとめられた。


「……支出、二割減」


「しかも、

 業務量は、ほぼ変わっていません」


 役人たちが、ざわつく。


「ということは……」


 誰かが、言葉を飲み込む。


 ――今までの金の一部は、

 本当に“必要な仕事”ではなかった。


 その場に、俺はいなかった。


 執務室で、

 いつも通り帳簿を見ていただけだ。


 夜。


 若い役人が、意を決したように言う。


「……若様」


「何だ」


「その……

 最初は、正直、失敗だと思ってました」


「だろうな」


「でも……

 今は……」


 言葉を探している。


「“戻したくない”と思っています」


 俺は、うなずいた。


「それでいい」


 改革が成功したかどうかは、

 俺が決めることじゃない。


 現場が戻りたくないかどうか――

 それだけだ。


 その頃、王都。


 監査官の一人が、報告書を読み直していた。


「……妙だな」


 失敗するはずだった領地。


 混乱するはずだった現場。


 だが、数字は――

 静かに、改善を示している。


「……まだ、結論は早い」


 そう呟きながらも、

 彼は報告書を机に残した。


 失敗事例として片付けるには、

 少し、数字が良すぎた。


 現場は、もう知っている。


 止めた金が、

 どれだけの“無駄”を覆っていたのかを。


 そして。


 それを止めた男が、

 感情ではなく――

 数字で判断していたことを。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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