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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 煤原ノクト


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第16話 数字は、黙って仕事をする

 朝。


 役所の空気が、微妙に変わっていた。


 騒がしくもない。

 だが、昨日までの刺々しさが、少しだけ薄れている。


「……あれ?」


 若い役人が、帳簿を見て首を傾げた。


「支払い、止まってますよね?」


「止まってるな」


 隣の役人が、素っ気なく答える。


「でも……

 滞ってる案件、少なくないですか?」


 二人は、顔を見合わせた。


 止めたはずだ。

 金の流れは、凍結したはずだ。


 それなのに――

 現場は、思ったほど混乱していない。


 俺は、執務机で書類を整理していただけだ。


 声を上げることも、

 説明することも、しない。


 昼前。


 城下の倉庫街から、報告が上がった。


「資材の搬入、通常通りです」


「……止まるって話じゃ?」


「ええ。

 ですが、前から無駄な手数料が乗っていただけで、

 実際の業者は、そのまま動いていました」


 誰も、俺を見ない。


 数字を見て、

 首を傾げ、

 勝手に理解し始めている。


 午後。


 若い役人が、声を潜めて言った。


「……不思議です」


「何がだ?」


「止めたのに、

 “必要な仕事”だけが残っています」


 俺は、ようやく顔を上げた。


「止めたのは、金だ」


 それだけ言って、また書類に戻る。


 夕方。


 臨時でまとめられた日次の支出表。


 数字を見て、

 役人たちが、黙り込む。


「……減ってる」


「かなり、ですね」


 まだ黒字じゃない。

 だが――

 出血は、明確に止まり始めている。


 誰も、声高に成功を叫ばない。


 それでいい。


 夜。


 王都監査官から、短い連絡が入った。


「……現地は、落ち着いたようですね」


「はい」


「正直、

 混乱が拡大すると思っていました」


 俺は、答えなかった。


 混乱しなかった理由は、

 すでに数字が示している。


 通話が切れた後、

 若い役人が、小さく言った。


「……数字って、

 こんなふうに効くんですね」


 俺は、帳簿を閉じた。


「数字は、

 喋らないだけだ」


 主張もしない。

 言い訳もしない。


 ただ――

 結果を残す。


 まだ、評価は覆っていない。

 王都の判断も、変わっていない。


 だが。


 現場は、もう知っている。


 何が無駄で、

 何が必要だったのかを。


 逆転は、

 いつも静かに始まる。


 音を立てるのは、

 遅れて気づいた人間のほうだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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