第10話 領主として
王都からの視察団が到着したのは、
黒字が確認されてから、三週間後だった。
人数は少ない。
だが、肩書きは重い。
「王国監査局より参りました」
そう名乗った男は、
形式ばった挨拶のあと、淡々と言った。
「本日は、貴領の財政状況について確認を」
「どうぞ」
俺は、すでに準備していた資料を差し出した。
帳簿。
収支表。
契約変更の経緯。
すべて、事実だけだ。
数刻後。
「……問題ありません」
監査官は、はっきり言った。
「むしろ、改善例として報告したいほどです」
老執事が、息を呑む。
「王都としても、
今後の運営方針については――
貴領の裁量に任せる、とのことです」
その一言で、空気が変わった。
それはつまり。
この領地は、
「失敗前提の押し付け先」ではなくなったということだ。
視察団が去った後。
最後の処理が残っていた。
商業担当だった、マルコ。
「……処分は、どうなりますか」
彼は、俯いたまま尋ねた。
俺は、少し考えてから答える。
「解任だ」
短く、だがはっきり。
「ただし、追放はしない」
マルコが、顔を上げる。
「城下の取引所で、雑務をやれ。
数字を学べ」
「……なぜ、そこまで」
「無能だから切るんじゃない」
俺は、静かに言った。
「嘘を、数字で隠したからだ」
マルコは、何も言えなかった。
それで十分だった。
その夜。
城の小さな食堂で、
ささやかな祝いが開かれた。
「若様が、本当の領主になられた日ですな」
老執事の言葉に、
誰かが、そっと杯を掲げる。
派手じゃない。
だが、温かい。
俺は、少しだけ考えてから言った。
「まだだ」
皆が、こちらを見る。
「黒字にしただけだ。
借金も、外圧も、問題も残っている」
だが。
「それでも――
この領地は、もう“捨て場”じゃない」
静かな、確かな拍手が起こった。
夜。
一人になり、城下の灯りを眺める。
赤字領地。
押し付けられた役職。
無能扱い。
すべて、過去だ。
(――次は)
この仕組みを、
この領地だけで終わらせる気はない。
他の辺境。
他の失敗例。
そして――
王都そのもの。
数字が通用するなら、
どこまででも行ける。
俺は、帳簿を閉じた。
領主として。
そして――
成り上がる者として。
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