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辺境貴族の僕は、古代知識で領地と幼馴染の未来を切り拓く  作者: 悠々


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第 2 話:信頼する協力者

数日が過ぎた。

アルノは自室にこもり、羊皮紙の山と格闘していた。

頭の中の知識はあまりに膨大で断片的だ。

一つの化学式を思い出せば、それに関連する無数の情報が奔流となって思考を埋め尽くす。

彼はそれを必死に書き留めた。

インクで汚れた指先が痛むのも構わず、ペンを走らせる。

いつかこの奇跡が霞のように消えてしまうかもしれないという、漠然とした恐怖が彼を駆り立てていた。


コンコンと重厚な木製の扉が静かにノックされる。

「アルノ様。バルツでございます。お加減はいかがですかな」

アルノが幼い頃から世話をしてくれている老家臣の声だった。元騎士であるバルツは、厳格だが忠義に厚い男だ。

「入ってくれ」

アルノはかすれた声で答えた。


扉を開けたバルツは、部屋の惨状に思わず眉をひそめた。

床にまで散らばる羊皮紙の束。

インクの匂いが部屋に満ちている。

そして、羊皮紙にびっしりと書き込まれた奇妙な図形と見たこともない記号。

「若様。熱が下がってからずっと部屋にこもりきりではお体に障りますぞ。少しは外の空気を…」

心配そうなバルツの視線がアルノの痩せた頬に注がれる。


アルノはペンを置いた。

インクが染みた指先を見つめる。

一人では限界だと感じていた。

この知識は、ただの文字の羅列ではない。

実践して初めて意味を持つ。

そのためには、信頼できる協力者が必要不可欠だった。

そしてバルツ以上にその役にふさわしい人物はいなかった。

「バルツ。君に話したいことがある。信じられないかもしれないが聞いてほしい」

アルノの真剣な声にバルツは居住まいを正した。


アルノは自分の身に起きたことを正直に話した。

熱にうなされた夜のこと。

頭の中に流れ込んできた古代の知識のこと。

そして、目の前の羊皮紙に書き留めた土壌改良の理論を指し示した。

「この土地の土には作物が育つための養分が足りない。だが特定の鉱石や植物の灰を正しい配合で混ぜれば土は蘇るはずだ」


バルツは最初アルノが熱で錯乱しているのだと思った。

だが、羊皮紙に書かれた内容は、彼が知る錬金術のような曖昧なものではなかった。

そこには、「A と B をこの比率で混ぜ、この温度で熱する」といった具体的な手順と論理があった。

何より、目の前の少年は以前の物静かな彼とはまるで別人だった。

その瞳には強い意志と知性の光が宿っている。

長年仕えてきたバルツにはそれが虚言や妄想から来るものではないと直感できた。


バルツはごくりと唾を飲んだ。

この若様の言葉は、ただの戯言ではないかもしれない。

もし本当ならこの貧しい領地を救う唯一の光になる。

「…承知いたしました。このバルツ、アルノ様を信じましょう」

老家臣は深く頭を下げた。

「この身命を賭してお助けいたします」

アルノは静かに頷いた。

孤独な戦いに最初の仲間が加わった瞬間だった。

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