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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ


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三幕

『どこでもド・・・』、いえ、『隠れ家』の検証です。

 翌日、二人で神父様のもとへ訪れると、フィデルは助手扱いで歓迎されてしまった。

 早速、『隠れ家』を発動させて、中に色々な物を入れてスキル解除で変わりはないか実験が始まる。

「うむ、植物も小動物も中に入れても弾きとばされない。解除後に再びスキル発動しても変わりはないし、別な場所につながっているのは確かじゃな」

「神父様、空間転移は行ったことのある場所と繋げるスキルだろ?」

 フィデルが記録係を務めながら尋ねた。空間転移は高レベルの冒険者に重宝されているレアスキルで、魔力が多い者ほど遠くへ転移できるものだ。

 国のお抱え術者になると、王城に転移陣を築いて国単位で行き来が可能にできるらしい。


「転移とは異なるようだ。別の空間に繋がってはいるが、出入りできるのはこのドアだけで移動はできない。

 うーむ、ドアが透明にでもなって誰にも気づかれなければ確かに『隠れ家』になるかもしれんが」

「熟練度が上がればドアの透明化もできるのですか?」

「憶測に過ぎんから、なんとも言えないのう。

 このドアは防音になっていないから、物音を立てないようにしなければ隠れるのは難しい。隠れん坊にはいいかもしれんが、生活には向かない『隠れ家』じゃな」

 神父様が顎を撫でて考え込んでいる。エミリアナはテオドラの言う通りにハズレなのかとガッカリした。

 フィデルがお湯のカップの温度を確認して、時間停止はないと告げてきた。


「神父様、ドアがあって人が入れる以外は収納スキルと変わらないみたいだけど?」

「そうだのう。もしかしたら、人力で運び入れるタイプの収納スキルなのかもしれん。しかし、人間を長時間中に入れておくのは危険だろうな」

「え、危険?」

 エミリアナが不安そうに顔を曇らせると、神父様が難しい顔になった。

「空気の通りのない洞穴、といえばわかるかのう。洞穴の中で火が消えると、息ができなくなるであろう?

 ドアを閉じてどのくらい火が消えずにいるものか。実際に人間が中に入って試してみるには危険すぎる」

「・・・もしかして、危険スキルになってしまうの?」

 エミリアナがぎゅっと祈るように手を握りしめると、フィデルが上からそっと手を重ねてくる。


「大丈夫だ、物を運び入れるために人が出入りできるようになっているだけだよ」

「ふむ、その通りかもしれんな。鍛錬によって容量が増えれば家サイズの収納ができるから、『隠れ家』なのかもしれない」

「神父様、収納スキルは別空間に生物以外を出し入れできて、中は整理整頓が自動で行われる。倉庫より使い勝手がいいって言われてるスキルだ。もしかして、エミリのスキルは収納スキルになりかけたものかもしれない」

「ほお、収納の一歩手前か。なるほど、下位互換のスキルなのかもしれんのう」

 神父様はふむふむと頷いて楽しそうだ。レアスキル談義ができて嬉しいのだろう。

 フィデルは滅多に見せない微笑みを浮かべた。


「熟練度があがれば自動で整理整頓や時間停止が可能になるかもしれない。そうなったら、運搬人の出入りは意味がなくなる。収納スキルと同じだ。レアスキルだと判断するにはまだ早い。

 もう少し、スキルの研鑽を試してもいいだろ?」

「そうじゃのう・・・」

「熟練度が上がって何か変化があったら、神父様に相談して確かめてもらうよ。

 ところで、神父様。見てほしい物がある。おれのスキルでこういうことができるようになったんだけど」

 フィデルは両手を合わせてゆっくりと広げてみせた。中に氷の塊が現れて少しずつ変化していく。少々歪な氷のバラができた。


「ほお、これは」

「新しい技で、練習すればもっと早く綺麗に形作ることができると思う」

「ほうほう。氷の彫刻か、芸術作品のようだのう」

 神父様は目をキラキラとさせて魅入っていた。

 氷魔法は特に夏場に重宝されるから、夏以外には出番がないと思われがちだ。食品の保存に用いられるから、食品関係以外には旅商人や冒険者に重宝されるスキルだった。

 フィデルは果物を凍らせてはよく氷菓にしていた。神父様にもスキルの確認という名目で氷菓を貢いでいたが、それ以外の能力のお披露目は初めてだ。


「冬は溶けにくいから氷像として外に飾ることができる。店先のオブジェとかで、売れるかな?」

「うーむ。もっと、精密な形にできれば需要があるかもしれんのう」

「練習してうまくできるようになったら、見せにくるよ」

「おお、それは楽しみにしておるよ。スキルの研鑽にはいつでも付き合うからのう。またおいでなさい」

 神父様はご機嫌になってお土産にクッキーをくれた。神父様は仕事柄でもあるが、スキルの研究が趣味でもあった。これまでに公にはなっていない新しい能力を検証するのが大好きなのだ。

 フィデルは神父様の好感度を上げてほっとした。

 孤児院の大人たちは領主の手先だと警戒しているが、神父様はスキルバカだと思っている。神父様を懐柔すれば領主への報告を無難なものにできると計算していた。




 フィデルは孤児院に戻りながら、エミリアナに申し訳なさそうな視線を向けた。

「エミリ、ごめんな。『隠れ家』を収納スキルになりかけとか言って。

 多分、レアスキルだと思うけど、領主サマに知られるのはマズい。だから、神父様に大したものじゃないと思わせたかった」

「フィデルは心配してくれたんでしょ? 領主様に囲われるとこき使われるって噂があるから」

「噂は本当だ。ここの領主は無能な上に信頼できない相手だと思ってる。

 去年、卒院した先輩から聞いたんだ。領主サマに雇われた孤児院出の使用人ほど離職率は高いらしい。体調を崩したっていうのが一番多い理由だってさ」

「え・・・、それじゃあ、辞めた後はどうやって暮らしてるの?」

「運がよければ救済院で養生して市井に復帰できる。最悪な場合だと貧民街で物乞いだ。・・・先輩は見かけたことがあるらしい」

「そんな・・・」

 エミリアナは目を大きく見開いて震えた。他人事ではない未来なのだ。


「フィデル。どうしよう。もし、領主様に声をかけられたら・・・」

「神父様が言ってただろ。収納の下位互換かもしれないって。そう思わせておけば大丈夫だ。心配するな。それよりも、口を開けて」

 フィデルはお土産にもらったクッキーを取りだしてエミリアナの口に押し込んだ。思わず、目を丸くしたエミリアナはもぐもぐしてしまう。

「皆の分までないし、大人に見つかったら『不平等だから』って取り上げられるだけだ。今のうちに食べてしまおう」

 フィデルもクッキーを口にした。エミリアナより大口で早食いだが、エミリアナが食べ終わるまで待ってくれている。最後の一枚を食べ終わると、フィデルが手を伸ばして彼女の口元を指で拭った。


「ひゃい! ふぃでるう?」

「食べかすがついてた。バレると、ドブスがうるさいからな」

「フィデルってば、テオドラが気の毒よ。変なあだ名をつけたりしないで」

 エミリアナが赤い顔をして睨んでくるが、フィデルはお構いなしでふっと口角をあげた。

「性悪が顔つきに現れてるんだ。ドブスで合ってるさ」

「もう! 『ドブス』は禁句よ。フィデルが誰かを貶めるのは見たくないよ、わたし」

「うっ、・・・わかった。もう言わない」

 フィデルは渋々と了承した。

 何かとエミリアナを嘲ってくるテオドラなんか抹殺対象なのだが、それでエミリアナに嫌われてはたまったものではない。


「それより、氷で薔薇ができるなんて凄いね。スキルアップで獲得した技なの?」

「ああ、エミリアナのおかげだ」

「わたしの?」

 エミリアナはきょとんとして首を傾げた。フィデルが眩しそうに赤い目を細める。

「アイスソードとか、アイスニードルが出せれば冒険の役に立つって教えてくれただろ?

 氷でいろんな形ができるか特訓してみたら、『造形』を獲得したんだ」


 氷魔法の用途はあまり広くはない。凍結時間は大きさに比例するので、動く魔獣を仕留めるのは難しかった。せいぜい氷の礫で攻撃するくらいだ。冒険者では獲物を凍らせて保存するほうが役に立つと思われていた。

 それをエミリアナの提案で色々な攻撃魔法を試すことができた。

 まだ短剣でしか形作れないが、アイスソードで対象を斬りつけるとそこから凍結させられるし、アイスニードルでネズミを仕留めることもできた。攻撃の幅が広がって氷魔法でも十分役立つ可能性がでてきたと感謝される。

 フィデルは十五歳ですぐに冒険者登録をするつもりなので、今から必殺技の獲得に熱心だった。


「フィデルの役に立てたならよかったけど、あまり無理はしないでよ?」

「うん、気をつける。他にも夢の知識でできそうなことはないか?

 今のうちにできそうなことは試してみたいんだ」

「他にかあ、夢では・・・って、ああっ、そうだ。あのドアレバー、見たことがあるはずだ。

 ()()()()()()()()()だったんだ!」

 エミリアナが飛びあがりそうな勢いで叫んで、フィデルを驚かせた。


 エミリアナは小さい頃から不思議な夢を見ることがよくあった。

 見知らぬ世界で暮らしていた一人の少女の夢だ。連続して見ることはなく、コーコーセイと呼ばれる学生だったことがあれば、次の夢では五歳くらいの幼女だったりした。いつも場面は切り替わるし、年齢も上下するが、少女視点なのは変わらない。多分、同一人物が経験した出来事を見ているようだ。

 ここではない世界で人々には魔力がないが、技術力を発展させてとても便利で快適な暮らしをしていた。黒髪黒目の民族で、エミリアナがフィデルの黒髪を見慣れない色だと忌避することがなかった所以である。

 ちなみに赤い目は飼っていたウサギの目みたいで、可愛いと思っていた。フィデルが打ち解けてからその話をしたら、盛大に顔をしかめられて『男に可愛いはない』と拗ねられてしまったが。


 エミリアナが夢の話をしたのはフィデルが初めてだ。

 生まれた時から孤児院で暮らしていて、最低限でも衣食住が保障されていたエミリアナは新しく入った孤児に妬まれることがよくあった。不思議な夢の話なんてすれば馬鹿にされそうで誰にも話す気になれなかった。

 フィデルは最初の頃は無口で口が利けないと思っていたから、誰かにバラされる心配がなかった。エミリアナは安心しておしゃべりに付きあわせたものだ。

 他領の知識があるフィデルは土地ごとに常識や風習が異なることを知っていた。エミリアナの夢の話を妄想と切り捨てることなく、興味深げに聴いてくれた。エミリアナは夢の知識があるから同年代の子供と話が合わないこともあった。空想癖があると思われて、テオドラに絡まれる原因でもあったのだが、年の割に物知りなフィデルとは気が合った。


 夢の知識によると、エミリアナは異世界に転生なるものをしたようだ。夢で前世の暮らしを垣間見ている、らしい。


 前世は娯楽作品も豊富で今の状態に当てはまったから『異世界転生』と結論づけたが、エミリアナには前世の人格が甦ることはなかった。夢で少しずつ前世の知識を得ていったから、他国のことを学んだような感覚で混乱はなく、性格が激変することもない。

 前世の家族も感情も前世のもので、今のエミリアナはセルダ領主直轄孤児院で生まれ育った一人の孤児だ。

 前世の家族を懐かしく思う気持ちはあるが、兄のようなフィデルがいるから寂しくはない。それを伝えると、彼は赤い瞳を細めて非常に複雑な顔になるのだが。


()()兄でもいいけどな」と小さく呟いたフィデルが優しく頭を撫でてくれたから、エミリアナは?と思ってもあまり深くは気にしていない。

 エミリアナは夢の中で一戸建てなる住まいで自分の部屋があった。隠れ家スキルのドアはその部屋のドアにそっくりだった。

「初めて見た時から、見覚えがあるなあって思ってたのよ。あのドアはわたしの部屋のドアだった。

 隠れ家はスキルアップすれば、夢のわたしの家に進化するのかもしれない」

 興奮気味に語るエミリアナにフィデルは段々と険しい顔になっていく。

「夢の住居ってかなり高級なお屋敷だよな。今はまだ穴蔵でも最終的にはお屋敷になるってヤバくないか?」

「夢の世界ではごく一般的な庶民の家だよ? 高級なお屋敷だなんて大袈裟じゃない?」

「シモンの話を思い出してみろ」

 フィデルの苦々しい声に、はたとエミリアナは正気に返った。


 エミリアナたちの孤児院は領主直轄だから建物も立派なものだ。シモンが移動してきた直後に聞いた話だと、町長宅と言ってもおかしくないくらい頑丈で綺麗だそうだ。

 雨漏りもしないし、隙間風が入ることもなくて、窓ガラスがひび割れたり欠けたりもしていない。床が軋んだり傾くこともなく、抜け落ちることもない。土壁が剥がれて崩れる心配もなくて、安全で安心できる住まいだとシモンがしみじみと感動していた。

 シモンは流行病で親兄弟が亡くなって孤児院に入ったが、一般庶民の暮らしだった。シモンの常識で考えれば今世と前世の一般庶民には雲泥の差がある。

 スキル認定前の孤児は孤児院の裏手の森にしか外出できない。認定後に初めて街中に外出が許されるようになるから、孤児院生まれのエミリアナは街中の様子には詳しくなかった。

 エミリアナは今世の庶民の情報に疎いと気づいて、さっと青ざめた。


「ど、どうしよう。フィデル、わたし、皆に変だと思われちゃうかも・・・」

「エミリはおれを嫌ったりしなかった時点で、皆に物好きだと思われてるから今更だろ?」

「え、なにそれ?」

「おれの両親は二つ隣の国の出身で、黒髪も赤目もこの辺りの住人にはない色なんだ。旅の間に珍しがられたり、気味悪がられたり、変だって言われたことはよくあった。エミリは最初から気にしてなかったけどな」

 肩をすくめるフィデルにエミリアナは首を傾げた。


「ええ〜、そうなの? 確かに珍しい色かもしれないけど、フィデルの黒髪はサラサラしてて艶があるし、赤い目もうさぎさんみたいでかわ「可愛くないからな?」

 フィデルに圧のある笑みを向けられて、エミリアナがふるっと身震いした。

「え、えーと。その、うん。野苺みたいで美味しそうだよ?」

「・・・美味しそう、か。それも、なんだかなあ。まあ、問題発言というか・・・」

 フィデルが額に手をあてて悩ましそうである。???とエミリアナは疑問符だらけだが、彼に答える気はなさそうだ。

「まあ、いいさ。エミリはそのままでいいよ。絡んでくるヤツはおれがシメるから」

「シメちゃダメでしょ。院長先生に怒られるよ?」

「おれがエミリを傷つけるヤツを許せないだけだ」

 うっと言葉に詰まって、エミリアナは赤くなった。フィデルは無自覚でやらかしてくれるから、全く敵う気がしない。


「と、とにかく、わたしのスキルってあまり使わないほうがいいのかな。スキルアップするのはマズいよね?」

「熟練度が上がると、スキルの書に技が増えるんだ。技を使わない限りは初期状態のままらしいから、技の使用に気をつければ大丈夫だと思う。

 多分、収納スキルの一種だと思われて荷運びをやらされるから、スキルを使わないわけにはいかない」

 孤児院ではスキルがわかればお手伝いと称して様々な労働を課せられる。成人と共に社会に出るから、独り立ちするための準備だ。

「技が増えたら、試す前に教えてくれるか? 外見の変化するものだと、レアスキルだってバレそうだ」

「うん、領主様に囲われたくないから、フィデルに相談するよ」

 エミリアナは素直に頷いた。


 スキルの書は本人にしかわからない。内容を明かすのはよほど親しい相手、家族や恋人だった。世間ではスキルの書の内容を共有するのはプロポーズだと思われているのだが、少女は気づいていないようだ。

 フィデルはふっと口角を上げて、エミリアナの迂闊さを歓迎していた。

エミリアナに転生者の自覚はすごく薄いです。前世の知識は便利そうと思っていて、本で得た知識を利用するのと同じ感覚でいます。エミリアナの情緒は年相応ですが、すでに将来設計をたてているフィデルのほうが早熟かも。

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