二十五幕
エミリアナはルカスに呼ばれて執務室へやってきた。
貴族学園に入学してそろそろ三カ月経つ。来月には夏季休暇も始まる頃だったが、ようやく学園内の噂が彼の耳に届いて苦言を呈しに来たらしい。
「一体、どういうつもりだ?
何故、殿下とチャベス家の令嬢の噂が広まっているのだ。お前は学園で何をやっている?」
「何を、と言われましても・・・」
エミリアナはきょとんとして首を傾げた。ルカスから睨まれているが、叱責される心当たりはない。
「殿下のお気に召すように、とのことでしたので。その通りにしているだけです。
殿下からは『学園内では他者と交流を持ちたいから、婚約者面するな』と命じられたので、それを厳守しているだけですが?」
「なんだと? いつ、そんなことを言われたのだ?」
「殿下と初めてお会いした時です」
「初めて、だと。・・・まさか、顔合わせの時か。そんな話は聞いていないぞ?」
ルカスが顔をしかめるが、エミリアナは不思議そうに見返すだけだ。
「殿下とお会いした時のことで、侯爵様はおられませんでしたから。ご存知なくて当然だと思います」
「何故、私に報告しなかったのだっ!」
ルカスが怒鳴りつけてくるが、エミリアナは困惑するだけだ。
「報告しなかったと言われましても・・・。聞かれませんでしたので。
侯爵様はいつも『口答えするな、余計な戯言を叩くな』と命令なさっているではありませんか。わたくしはご命令通りにしております。侯爵様の質問に答えているだけで余計なことは口にいたしません」
「なっ!」
ルカスは口を開いたものの、反論できなかった。確かにエミリアナにそう命じていた。
「そ、それでも、殿下と不仲と噂されるのは我が家にダメージを与えるとわかるであろう。
お前には孤児院から引き取って育ててやった恩があるのだから、我が家に報いなくてどうする⁉︎」
誰も引き取ってほしいなんて頼んでいませんが? と言い返したかったが、エミリアナは淑女の微笑みを浮かべた。
「殿下に逆らってご機嫌を損ねるほうがセルダ家にとってよくないことだと思いましたので、殿下の言う通りにしています。
そもそも、仮婚約でいつでも解消可能と言われているのですから、婚約者の座に固執するのは悪手ではありませんか?」
「確かに学園での成長具合を鑑みて最終決定すると言われているが、それは候補者たちだけではない。殿下もまた王族としての資質を見極められているのだ。
お前が仮婚約者に選ばれたのは殿下のフォローを期待されてもいるのだぞ、殿下をお諌めすることができなくてどうするつもりだ?」
そんなの知らんがな、と心の中だけで突っ込んで、エミリアナは『あらまあ、困ったわあ』と頬に手をあてた。
「まあ、殿下をお諌めするなんて畏れ多いことですわ。孤児であった元庶民には荷が重すぎます。
本当にそれが陛下のご意見なのでしょうか?」
言外に『あんたの曲解なのでは?』と皮肉ってやると、ルカスが渋い顔になった。
「陛下のご意見なのは間違いない。市井の様子を知る元庶民だからこそ、王宮しか知らない殿下に意見できると陛下はお考えだ。
養子の中でお前が一番淑女教育も収めていると王妃様からの推薦もあって仮婚約者に選ばれたのだ。お前はそれを自覚して行動せねばならない」
「・・・殿下はご存じのことなのでしょうか?」
「いや、殿下ご本人には知らせていないと聞いている。見極め最中だと殿下が気づくかどうかも、今後を決める判断材料になっているらしい」
ええ〜、何その無茶振り〜、とエミリアナは死んだ魚の目になった。
望んでもいない仮婚約者に選ばれた上にカルロスの教育も手伝えってか、なんて無責任なのだろうか。
王族籍に残すと決めたのだから、教育は王家でしっかりと行うべきだ。人材に困りはしないだろうに、なぜにわざわざ仮婚約者などを定めて、矯正させようというのか。お偉い方の考えることは謎だ、とエミリアナはうんざりとなった。
「殿下本人に気づかせたいのならば、それこそわたくしが何かするのは余計なことですわ。
わたくしは殿下が快く学園生活を送れるように見守りたいと思います」
要するにこのまま放置すると告げたのだが、さすがに気付いたようでルカスの渋面がものすごいことになった。
「殿下の言いなりになるばかりが忠実な臣下ではない。殿下のためになる忠言をしてこそ」
ルカスのお説教を遮るように強めのノックがした。返事も待たずに入り込んできたのは姉のルイシーナだ。
「お父様! いつまで、エミリアナを引きとめてますの?
エミリアナはまだお茶会の支度を済ませていませんのよ!
トルエバ公爵令嬢やドラード公爵令息をお招きしてますのに、ホストが不在でどうしますの。わたくしの友好関係を台無しにするおつもりですか!」
ルカスは娘に鋭く睨まれて眉間にシワを寄せた。
「トルエバ公爵令嬢とドラード公爵令息だと? そんな大物を招いているとは聞いてないぞ、いつものお茶会ではないのか?」
ルカスは領地と王都を行ったり来たりしている。領地経営だけでなく、王都での社交や商談などを一人で手掛けていて多忙であった。まだ先代夫妻が存命の時は補佐してもらえたし、社交も先代に任せておけばよかった。
妻は病弱で体調不良だからと領主の仕事はルカスに任せっきりだ。余計な口出しも手出しもしないが、手伝いもしない。社交さえも、領都の邸に近隣領地の夫人を招いてお茶会という名の愚痴り大会を開いているだけだった。
近隣領地は伯爵家以下で侯爵家であるセルダ夫人のお招きを断れなくて応じているに過ぎない。商談につながる話題など期待できないし、他家への有力な伝手を得るのも無理だ。
ルカスは先代の築いた人脈を維持するのに手一杯で新規開拓はできていない。貴族社会の噂が耳に入るのは遅れがちで、娘の交友関係も把握していなかった。
「ああ、もう、説明の時間も惜しいですわ。エミリアナは用意があるので連れて行きますから、状況把握は家令にでもなさってくださいな」
ルイシーナは父の返事を待たずにエミリアナと腕を組んでさっさと退出した。今日はプリンパーティーで朝から邸中が準備に追われていた。
まだ時間に余裕はあるが、連れ出してもらえてエミリアナはほっとした。
「お姉様、ありがとうございます。助かりましたわ」
「お礼なら、貴女の専属料理人に言ってちょうだい。彼女が知らせてくれたのよ」
ルイシーナが軽く肩をすくめた。
エミリアナはタウンハウスでは普通に本館に部屋がある。実子のルイシーナと遜色ない扱いをされていて、テオドラを専属料理人の見習いにするのも認められた。
タウンハウスではルカスが甘い物を好まないせいでデザート料理はカットフルーツばかりだった。テオドラの師匠考案のデザートもレシピはあるのに作られることもなかった。デザートの担当者はおらず、ルイシーナが学園に通うようになってから、レシピを確認し始めたそうだ。
そんな中で厨房に配置されたテオドラは見習いでも大歓迎された。
テオドラは作り方を熟知している上にアレンジも可能で、すぐにデザート料理を任された。特にバラハ特産品のプリン作りに精通しているから、お茶会要員として重宝されているらしい。
テオドラはお茶会メニューの確認という名目でエミリアナの部屋を訪れる許可を得た。本当にメニュー相談することもあるが、大概は気楽なおしゃべりだ。これまでのお互いの状況を話し合って、エミリアナは渇望していた情報を手に入れることができた。
神父様や院で親しかった相手の様子を教えてもらい、特にフィデルがC級冒険者になって活躍していると聞いた。怪我をすることなく、順調に階級を上げていると知って一安心だ。
エミリアナも自分のことを話した。仮婚約で解消を狙っていること、ルカスとは血の繋がりがないから貴族籍から抜けたいと望んでいることをテオドラに伝えた。
テオドラもエミリアナに会って最後の手紙の真意を知りたかった、領主お抱え料理人はその手段に過ぎないから、と協力を申し出てくれた。
エミリアナはルイシーナや専属侍女筆頭のモニカを信頼しているし、貴族令嬢としては心強いのだが、やはり平民の感覚は理解してもらえない。同じ立場で物事を感じ取れるテオドラがそばにいるのは安堵感が桁違いだった。
「テオドラは案外聡いから、味方だととても心強いのですよ」
くふふふとエミリアナが嬉しそうに笑って、ルイシーナは少々複雑な心境になる。
テオドラ相手のエミリアナはいつもよりもっと素が出ていて楽しそうだ。今までよりずっと自然体な笑顔を見せていて、姉である自分よりも近しい相手なのだな、と少しだけ寂しい思いがする。
ルイシーナは気分を切り替えるように頭を振った。
「会場の準備は順調よ。料理もほぼ完成してるし、あとはわたくしたちが着替えて会場のチェックをしないとだわ。お父様のせいで時間がおしているけど、なるべく急いで用意してちょうだい」
「はい、お姉様」
エミリアナは頷いて淑女として許される限り、足を早めた。
お茶会は晩餐用の食堂を模様替えして行われた。長テーブルに大きなお盆を並べて各種類ごとのプリンを載せた。給仕役がそばについて運んでくれるので、各自好きなプリンを選んで席に着いて味わうのだ。
スタンダードなプリンから評判のかぼちゃプリンにキャラメルプリン、新作のミルクティープリンなど甘い味が勢ぞろいしているから、変わり種で甘くないプリンも用意された。
エミリアナのアイディアで中にきのこや豆などの具材が入った惣菜プリンだ。今の世界では野菜の皮などを煮詰めたり、日干し食品の戻し汁を出汁にしているから、スープを牛乳の代わりに使用した。
本当は茶碗蒸しと呼びたかったが、貴族的なネーミングセンスでは不可をだされてしまった。どのみち、銀杏や蒲鉾などを手に入れるのは無理で無難な具材を入れてもらったから、厳密には茶碗蒸しと呼べない。まあ、惣菜プリンでいいか、とエミリアナは密かに妥協した。
惣菜プリンの見た目は普通のプリンと変わりないので、皆初めてでも抵抗感なく味わっていた。
「うん、つるっとした喉越しで食べやすいね。食欲のない時にでも食べられそうだ」
「そうね、優しい味がするわ」
イサークとメラニアが仲良く隣り合ってお互いに食べさせっこしている。相変わらずのラブラブぶりだ。
彼らはそれぞれ従者と弟を同行したが、会場では別行動している。ルイシーナの友人は弟妹を連れてきているからメラニアの弟は彼らと親交を深めているし、年上の従者は一人黙々とプリンを味わっていた。どうやら、厳つい見た目に反して甘い物好きで三食間食まで甘味づくしでもイケるほどだという。
「お口直しって聞いたけど、この惣菜プリンも十分美味しいよ。これも新作発表でいいんじゃない?」
イラリオがお気に召して二つ目の惣菜プリンを味わっている。
「そうねえ、これもレシピ登録しましょう。エミリアナ、貴女の専属は構わないかしら?」
「ええ、構わないと思います。お姉様、皆様の評価も高そうですので、これも店舗に並べましょう」
エミリアナが周りを見渡してから、こくこくと頷いた。
プリンは卵と牛乳と砂糖で作られるシンプルな料理だ。蒸し料理が普及していないから調理法がばれていないだけで、そのうち一流の料理人ならば再現できるようになるはずだ。その前に王都に店舗を出す計画をルイシーナは立てていた。
バラハの特産品でセルダ領名物と知名度があがっている今のうちに店舗をだして、元祖プリン店の看板を打ちだすつもりなのだ。もう店舗を出す場所は抑えてあって内装工事も行われている。店長や店員の候補もバラハ町から募って最終選考中だった。
侍女がお茶のお代わりを配りだしていた。飲み物も紅茶のほかにハーブティーやローズティーなどプリンに合いそうな種類を取り揃えてあった。
ローズティーはイサークの領地の特産品を融通してもらった。複数取り揃えてくれて、味だけでなく、紅色に薄いピンク色や黄色っぽいものなど色合いも楽しめる。女性陣には好評だった。イサークも取引相手が増えそうだと満面の笑みを浮かべている。
そこへ執事が急ぎ足で近寄ってきた。顔色が悪く、何かトラブルが起きたようだ。
耳打ちされたルイシーナが目を丸くして、イラリオとエミリアナは何事かと身構えた。
「すぐに第一応接室にお通しして。厨房に最高級の茶葉をお出しするように伝えてちょうだい。お茶菓子はプリンの余りはあったかしら?」
「それがお嬢様、旦那様の指示でこちらにお通しするようにと・・・」
「なんですって⁉︎」
ルイシーナが声をひきつらせて、イラリオとエミリアナは顔を見合わせた。
「シーナ、何かあったのかい?」
「招かれざる客が非常識な相手をお連れ「皆様、お楽しみいただけておりますかな」
ルイシーナの苦々しげな言葉が終わる前にルカス自ら客人を案内してきた。カルロスとアナスタシアだ。
両名とも招待状はなしだ。先ぶれもなく、招待もしていないのに訪れるなんて非常識どころではない。無礼の極みだ。それなのに、カルロスを案内したルカスは上機嫌でいる。
カルロスがセルダ家を訪問するのは初めてだ。チャベス家に入り浸っている噂を聞いた後だから嬉しいのかもしれないが、アナスタシア付きでも構わないのか? と、エミリアナは内心で呆れていた。
「ルイシーナ、殿下をご招待していないなど、失礼ではないか。すぐに殿下の席を用意しなさい」
出しゃばる父は無視したルイシーナが優雅に立ち上がって綺麗な一礼をした。
「まあ、殿下にチャベス様。いかがなさいましたの?
本日はとても私的な集まりでごく親しい方しかお招きしていないのですけれども?」
「新作プリンのお披露目会と聞いてな、来てみたかったのだ。アナスタシア嬢も興味があると言うので連れてきた」
「突然お邪魔して申し訳ないわ。でも、殿下がどうしてもと仰るから同行しましたの」
ルイシーナの棘に気づかないカルロスに、気づいていても厚顔無恥で応じるアナスタシア。
空気読めよ、とその場の誰もが思った。
「まあ、お二人ともそれほど興味がお有りでしたの。前日にでもお声がけしていただけましたら、招待状をご用意しましたのに」
うふふふと目だけ笑っていない笑みを浮かべたルイシーナが冷淡な視線を父親に向けた。
「お父様、娘の友人たちとのパーティーに親が顔をだすなど無粋でしてよ。皆様、気まずいではないですか。
殿下の案内が済んだのですから、お引き取りくださいませ」
「旦那様、こちらへどうぞ」
ルイシーナの指示で執事が動いた。さり気なく誘導してルカスを退場させる。ルカスもここで食い下がるのは見苦しいと思ったのか、執事に従った。
急いでカルロスとアナスタシアの席が用意されるが、飛び入りなので小テーブルにテーブルクロスをかけて近くの花瓶を飾っただけだ。急拵えだが、二人だけだから余裕があって特別席のようになった。二人とも満足げで早速プリン全種の要望をだしている。
ルイシーナの友人たちは伯爵家や子爵家で、その弟妹となるとまだ学園入学前だ。王族を目の前にして挨拶すべきか居心地が悪そうにしていた。ルイシーナは別室を用意させて彼らを移動させることにした。何か不敬があっては困るから、カルロスたちにはホストだけで対応するつもりだ。
メラニアとイサークもカルロスたちの傲慢な無礼さに呆れていた。彼女たちが挨拶すると他の者も倣わねばならないから、ここは主催者に任せることにした。
イラリオが客人たちを案内して相手をしてくれるので、ルイシーナとエミリアナだけが残った。
カルロスとアナスタシアはプリンに舌鼓を打って気づいていなかったが、全種類制覇して満足してから周りを見渡した。
「なんだ、他の者たちはどうしたのだ?」
「殿下とご一緒するのは恐れ多いのですわ。皆様、学園入学前のお連れ様がいらっしゃいましたし。
別室で休憩されていますの。殿下も年少の方々を怖がらせるのは本意ではありませんでしょう?」
「ああ、うん、そうだな」
カルロスがルイシーナの冷ややかな視線から目を逸らした。さすがに王族としてマズい行動だと今更ながらに気づいたようだ。
「本日は私的なお招きでしたのでしょう。仮婚約者の殿下をお呼びしないなんて失礼ではないですか」
アナスタシアが責めるようにエミリアナを見据えてくる。
「あら、意外なことを仰いますのね。わたくしは殿下のご命令に従っているだけですわ。
『婚約者面するな』と仰って、わたくしとの交流をお断りされているのですから、私的なお茶会に招くわけにはいきませんもの。殿下はご命令をいつ撤回なさいましたの?」
「い、いや、それは学園内のことで、学園外では普通にして構わないのだ」
「普通にと仰るならば、これまでと同じですわね? 今まで一度もお茶会に招待したこともされたこともございませんが?」
「母上の招きには応じているではないか」
「王妃様主催のお茶会で他の候補たちも招かれています。公なもので、私的なお茶会とは違いますわ。私的なものは本当に親しい友人や身内で行うものですもの。
私的なお茶会に殿下をお招きしろと言うならば、チャベス様は候補を辞退なさるおつもりかしら?」
「なんですってえ⁉︎」
アナスタシアが目を剥いてくるが、仮婚約者を私的なお茶会に誘えば婚約者決定とみなされてもおかしくはない。
エミリアナは皮肉げな笑みでカルロスを見やった。
「殿下も仮を外すおつもりでいらっしゃるのかしら?」
「え、まさか! 私の隣にはもっと貴族的な容姿でないと釣り合わないだろう?」
すんとエミリアナもルイシーナも無表情になった。容姿で配偶者を決めるとか、王族どころか貴族としてもあり得ない話だ。
「だ、だって、新作プリンのお披露目会だったのでしょう?
王妃様もお気に召しているプリンなのに、殿下に披露しないなんておかしいわよ!」
「お披露目会ではなく、試作会です。まだ改良の余地がありますものを王族のお口に入れろだなんて、チャベス様は少し無礼なのではないかしら?」
試作品ではなく完成品だったが、悪びれないアナスタシアに腹が立つ。ルイシーナはわざと『試作』を強調して、扇子で口元を隠してアナスタシアを見据えた。
扇子で口元を隠す仕草は不快感を示す行為だ。アナスタシアの頬に朱が昇る。
「ふ、ふん、何よ!
プリンなんて持て囃されているけど、そう特別なものではないわ。ただ、卵液を柔らかく固めただけじゃない。パンプディングの類似品でしょ」
硬くなったパンを卵液に浸して焼く料理は存在していた。主に庶民たちが残り物のパンを美味しく食べるために行っている。夢の知識ではフレンチトーストと呼ばれていたな、とエミリアナは思い出した。
焼くとどうしても固めでぼそりとした食感になりやすい。柔らかくつるっとした食感がプリンの売りで、蒸し料理の特徴だろう。
今までにない食感が受けいれられて、アナスタシアだって気に入っているはずだ。何せ、全種類制覇しているのだから。
それを強がってわざわざ貶してくるのだから、面倒くさい相手だ。食べ終わったのだから、もう帰ってもらいたい。
「お姉様、手土産の用意ができたそうですわ」
エミリアナは王家への、正確には王妃宛に今日のプリンの詰め合わせを用意してもらった。本当は今日の参加者へのお土産だったのだが、急遽王家用に豪華な箱に入れて薔薇の花を添えて飾ってもらった。イサークご自慢のローズティーも各種缶で揃えて献上する。
「殿下、こちらをお持ちくださいませ。王妃様には『まだ試作段階で申し訳ないのですが』と一言メッセージカードに添えてありますが、殿下からもぜひお口添えしてくださいませね」
エミリアナはにこやかな笑みを浮かべていたが、内心では『これで王妃様にカルロスのやらかしが伝わるのは確実。せいぜい、叱責されろ』とまっ黒い笑みだ。
「あ、ああ、もらおう。その、試作でもうまかったぞ。
料理人に今後も精進するように伝えてくれ」
「はい、かしこまりました」
はあっ⁉︎ あんたのためじゃないけどお? と、激怒するテオドラの声が脳裏に響いた気がする。
エミリアナはそそくさと、でも、しっかりと手土産を持って退散するカルロスの後ろ姿に塩を撒いてやりたかった。
後日、王妃からお礼のお手紙と謝罪の品が届いた。
カルロスのやらかしは誤魔化しようがなく、しっかりと王妃に伝わったらしい。『従者の方、隠すことなくお伝えしてくれて、ありがとうございます』とエミリアナは心密かに感謝の祈りを捧げた。
カルロスは学園生活で少々浮かれています。友人付き合いができるようになったので、気楽にセルダ家へ訪問してきました。アナスタシアとは友人のつもりで誘っています。
エミリアナやルイシーナにしてみれば、『はあっ⁉︎ 誰と誰が友人だって?』とツッコミたいところですが、淑女らしく堪えてました。




