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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第三章 仮婚約者のエミリアナ

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二十四幕

 グラシアン王国の貴族学園は入学時の試験で上級クラスと下級クラスに分けられる。

 裕福な者ほど教育を受ける環境が整っているので、大概は身分順のようなクラス割になるが、稀に子爵家や男爵家でも高得点をとって上級クラスになることがある。優秀な人材として王宮官吏から目をかけられるので、文官職狙いの継ぐ爵位のない次男や三男は入学試験に必死になって取り組んでいた。

 逆に高位貴族で下級クラスになるなんて不名誉極まりなく、あり得ないことだった。もし、万が一にでもなってしまった場合は理由をつけて入学辞退するらしい。


 エミリアナたちの代ではあり得ないことが起こることはなく、辞退者が出ることはなかった。伯爵位以上の上級クラスでルイシーナやイラリオが一緒なのは心強いが、カルロスやアナスタシアもクラスメイトなのは鬱陶しかった。

 なにしろ、カルロスはアナスタシアのスキルがお気に入りらしく、何かと理由をつけては浄化を見たがっていた。学園内でもスキルを披露させそうな勢いだったが、さすがにトルエバ公爵令嬢に睨まれている自覚のあるアナスタシアは自重していた。時折、自慢話をするくらいで、スキルを見たければ自家にどうぞと招いていた。

 入学して早々にカルロスがチャベス家に入り浸っていると噂が出始めていた。


「殿下には仮婚約者の自覚はないのかしら?」

「学園内だからと気を抜いているらしいねえ。いくら、学園でも陛下や王妃からの目がないわけないのに」

 口角をあげてカルロスを皮肉るのはトルエバ公爵令嬢のメラニアだ。隣り合って座っているのは婚約者のイサークで、隣国のドラード公爵家の嫡男である。

 何故か、目の前で二人のいちゃつきを見せられつつ、昼食を摂っているのはエミリアナたちだ。ルイシーナの隣にイラリオが座り、エミリアナは一人用の角席で夢の知識ではお誕生日席なるものだ。


 学園の食堂は一般用の一階席と予約制の二階席がある。

 二階席を使用するのは高位貴族が多く、護衛の心得のある給仕がつく。高さのある観葉植物で仕切りを設けて、個室のような空間でゆったりとくつろげるのが売りだ。観葉植物に薄く風の幕を纏わせてあるから、会話内容が他に漏れることもない。気兼ねなく内輪話もできると好評だった。

 メラニアとイサークは交流を深めるために二階席を卒業まで貸切予約していた。時折、ご友人も招いて人脈を広げているのだが、チャベス家のお茶会で顔見知りになった中でもエミリアナたちが招かれることが多い。

 どうやら、イサークはカルロスと友好関係を築く目的もあった留学なのに、メラニアの話を聞いて予定変更したらしい。

 王族のくせに冒険者を侮り、スタンピードを軽視しているカルロスには見切りをつけて、イラリオやルイシーナと親交を深めることにしたようだ。エミリアナのこともメラニアが気に入っているからと一緒に招かれている。


「殿下はいつも他の令嬢と昼食を共にしているらしいけど、エミリアナ嬢はいいのかい?

 仮婚約者で筆頭婚約者候補なのだろう?」

 イサークが隣のスペースに目を向けてから問いかけてきた。

 隣ではカルロスがアナスタシアや取り巻き令嬢たちを招いて昼食の真っ最中である。会話は聞こえないが、楽しげに笑い合っている様子が観葉植物の隙間から垣間見えていた。

「ええ、お構いなく。

 ()に過ぎませんので、いつでも解消は可能ですし、殿下によりよいお相手が現れたら、即座に辞退する旨は伝えてありますから」

「エミリアナの好みは騎士のような逞しいタイプですのよ」

 ルイシーナが隣に意味深な視線を向けて微笑んだ。

 上級冒険者がタイプだとするとピンポイントすぎて何か邪推される恐れがある。騎士が好みのタイプだと公言するのがちょうどよいとして流布中であった。

 メラニアから聖戦参加を呼びかけられて返事のできなかったカルロスでは騎士にはほど遠い。対象外だと暗に告げていた。

 イサークが納得したように頷いた。


「なるほど。好みのタイプではないなら、成約は却って困るのか。

 セルダ家の意向としてはそれで構わないのかな?」

「ええ、リオとの縁で王家との繋がりはありますから。エミリアナまでとなると、他家からの反発や軋轢もあり得ますし。

 陛下もそれを危惧して、()()()としているのですから、殿下には是非とも他の令嬢を見初めてもらいたいですわね」

「でも、殿下の配偶者は王子妃教育を受ける必要がある。殿下が選んだ相手なら誰でもいいわけではないだろう?」

「当然だね。カルロスの隣を願うならば、学園で好成績をとるように候補者全員に通知されているよ。

 もし、カルロスが候補者以外から選ぶつもりなら、配偶者の分もカルロスがカバーできるようにあらゆる面でトップを取れと言われているそうだ。でも、これまでの学園生活から、カルロスが候補者以外を選ぶとは思えないな」

 イラリオが肩をすくめてみせた。


 カルロスは気楽な学園生活を謳歌しており、学業一筋ではない。むしろ、人脈を広げようと交友関係に力を入れているくらいだった。そんな中で仮婚約者のエミリアナとはただのクラスメイト以外の関わりはない。不仲の噂が流れるのは早かったが、セルダ家では放置していて、エミリアナもルイシーナも『殿下が欲しい方はどうぞ、どうぞ。喜んでお譲りしますわ』の姿勢だ。

 くすりとメラニアが笑みをこぼした。


「チャベス様のお茶会でも思いましたが、エミリアナ様は案外飄々として強かですのね。

 チャベス様に見事なやり返しでしたわ。わたくし、感心してついつい便乗してしまったくらい」

「その時の勇姿をぜひ見たかったよ」

 イサークが残念そうにため息をついて、切なげな視線を婚約者に向ける。メラニアがにこっとして、イサークの頭を撫で撫でしてあげて彼のご機嫌は治った。


 うわあ、何を見せられているの・・・。


 エミリアナがげんなりとして姉たちに視線を向けると、イラリオが羨ましそうな顔をしている。ルイシーナは気づいておらず、目の前のいちゃつきに『あらまあ、困ったわあ』とばかりに頬に手をあてていた。

 どうやら、姉たちではイラリオのほうが想いが強そうだ。いや、世の中の男性は意中の女性に甘やかしてもらうのがお好きなのか?

 エミリアナが密かに頭を悩ませていると、ルイシーナが招待状を取り出した。

「お二人のお邪魔をして申し訳ありませんが、今日はこちらをお渡しせねばなりませんでしたわ。

 メラニア様待望のプリンパーティーを開く予定ですの」

「まああっ、本当ですの⁉︎」

 メラニアが目を輝かせて両手を組んだ。


 エミリアナの生まれ故郷バラハ町ではプリンが特産品になっていた。あまり日持ちするものではないので、現地でしか味わえない。メラニアは隣国からの帰途によってプリンをお気に召していたが、氷の魔石を使っても数日しか持たず、王都まではとても持ってこられなかった。

 プリンのレシピは領主権限で秘匿されていて、バラハ町とセルダ家でしか味わえなかった。

 ルイシーナは王妃からの要望でお茶会に持参したことがあるが、普段はセルダ家でお茶会を開く時にしかプリンをださない。他家の料理人にレシピの解析をされない用心だ。


「新作のプリンができたそうなので、試食会を行おうと思いまして。

 どうせなら、これまでのプリンも同時に味わっていただいて食べ比べしてもいいのではないかと、エミリアナが言いだしましたの」

「へえ、いいね。僕の分もあるかな?」

 イサークも身を乗りだしてきて、ルイシーナがもう一通を手渡した。

「ええ、同伴者可のパーティーですので、お二人でご一緒してもいいですし、お友達やご兄弟といらしても構いませんわ」

「それなら、従者でもいいかな? 一応、準男爵の爵位持ちでマナーに問題はないし、彼もプリンを気に入っているんだ」

「それなら、わたくしは弟を誘っても構いませんこと? 初等教育中なのですけど、お茶会の作法は取得してますわ」

 メラニアには十歳になる弟がいて、流行病で亡くなった兄に代わって跡継ぎとなった。後継者教育で大変だから、ご褒美に食べさせてあげたいという。

「ええ、わたくしの友人も数人招いておりますが、弟妹を連れてくると言っていましたので、お友達になれると思いますわ」

 ルイシーナが了承したので、メラニアとイサークは嬉々として招待状を眺めていた。


 エミリアナがタウンハウスに戻ると、姉の部屋に呼ばれた。新作プリンの功労者を労うから同席するように、とのことだ。

 新作プリンができるとレシピを領主に献上する形だった。料理人には十分なレシピ料を払うし、秘匿するために領主の権力で守ってもらえるので、悪い話ではない。料理人はレシピ登録で考案者として名を残してもらい、一介の平民にとっては名誉なことだった。

 今回はバラハ町からプリン発案者の一番弟子が見習い料理人として領主邸に雇われて新作を作ってくれたそうだ。

 これまでもかぼちゃプリンを考案していると聞いて、エミリアナは期待していた。夢の世界のように色々な味が楽しめそうだ。

 ルイシーナの侍女のミレイアに連れられてきたのはまだ若い女性というか、ルイシーナたちと同年くらいの少女だった。艶のある金茶の髪をきっちりとまとめてシニョンキャップで覆い、侍女のお仕着せも華麗に着こなしている。

 少女はお茶の支度のしてあるワゴンを押してきて、手前に止めると綺麗な一礼をした。


「お嬢様方にお目にかかる栄誉を感謝いたします。

 ミルクティープリンを考案いたしました、テオドラ・デボタと申します。

 ミルクティープリンがお嬢様方のお気に召されたら大変光栄でございます」

「まあ、そんなに硬くなることはなくてよ。もっと、楽にしてちょうだい」

 ルイシーナの許しを得て、深々と下げた頭があげられる。小生意気そうな吊り目は変わらないが、美しさには磨きがかかっていた。容姿が磨かれただけでなく、所作が洗練されていて、これが本当に孤児院で一緒だった()()テオドラなのか? と、エミリアナは困惑した。

 懐かしい声なのに、聞き覚えのある言葉使いではない。間延びもせず、馬鹿にする感じもない、普通の話し方だった。エミリアナと目が合っても平然としていて、まるで他人の空似のようだ。


「て、ておどら?」

「エミリアナ、どうしたの?」

 辿々しい声にルイシーナが妹を見やると、深緑の瞳が潤んでいた。ぶわっと涙が盛りあがってきて、くしゃりと顔が歪む。驚くルイシーナの前でエミリアナは淑女の仮面がどこかに吹っ飛んでいった。

「て、てお・・・、わ、忘れちゃった、のお?」

「忘れるわけないでしょお? なあに、泣いてるのよお」

 間髪入れずに答えたテオドラがエミリアナの顔にハンカチを押し付けた。一介の使用人にしてはあり得ない馴れ馴れしい態度だ。

 ミレイアもルイシーナも驚いて身動きできないでいると、エミリアナがうわああんとテオドラに飛びついた。

「テオドラだ・・・、本当に。あ、会いたかっ」

「それはあいつに言ってやりなさいよお。

 拗ねてたからねえ、最後の手紙が一行だけだって。まあ、思うように書けなかったんだろうけどさあ」

 テオドラは間延びした元の話し方でエミリアナの栗色の頭を撫でた。以前、隠れ家の中で大泣きしたのとは逆で、今度はテオドラがエミリアナを慰めている。


 おすまし顔のエミリアナと目が合って驚愕に満ちた顔になったと思ったら、すぐにぐしゃぐしゃに表情を歪めた。

 お貴族様は表情を取り繕うのが常だと養父から聞いていたから、エミリアナが無理をしているのだとすぐにわかった。頑張って貴族令嬢の仮面をかぶっているが、エミリアナの本質は変わらない。孤児院で過ごしていた時のままだと悟って、テオドラはほっとした。


 十五歳の誕生日を迎えて領都の領主邸で見習い料理人となったが、まだ未成年のテオドラは料理人以外にもメイドの道もあると、まずは採用期間を設けられた。孤児院では使用人の礼儀や所作が完璧でも、侯爵家ではまだ至らないところもあって矯正されていたのだ。

 テオドラは頑張った。料理人かメイドのどちらかではなく、両方を目指して必死に努力した。

 メイドは侍女に昇格できるし、運がよければお嬢様付きにもなれる。エミリアナと会う確率が高くなるが、後ろ盾のない孤児では険しい道だ。一方、料理人がお嬢様と関わる機会は料理を褒められる時くらいでお気に召す新作を常に考案し続けなければ難しい。


 テオドラは師匠の養父が若い頃に領主邸の料理人でデザート担当だったことがあって、スイーツ関係には詳しくなっていた。ご令嬢はお茶会で流行り物を紹介してマウント合戦を繰り広げるらしいから、新しいスイーツはお嬢様の目に留まりやすいらしい。

 スイーツ専属料理人になればお嬢様付き侍女になりやすいのでは? と思ったのだ。

 もし、希望通りにいかなくても領主邸で身につけたものは今後の武器になる。いずれにしてもテオドラにはメリットだらけだった。

 努力の甲斐あってようやくお嬢様にお目通りが叶った。


 嫡子であるルイシーナ付き侍女のミレイアがテオドラの出身地を確認した時に探る目つきになったから、きっとエミリアナと同郷だと気づかれたと思った。

 ご令嬢になったエミリアナに幼馴染みとして接していいものか様子を見るつもりでいた。テオドラが他人行儀な態度でいたら、エミリアナが泣きそうになったから戦略変更だ。

 エミリアナが変わっていないなら、テオドラだって変わる必要はない。

 えぐえぐ泣きじゃくるエミリアナにルイシーナもミレイアもおろおろとしていたから、テオドラはエミリアナに抱きつかれたまま器用に頭を下げた。


「このような格好で申し訳ありません。お叱りは後で如何様にも受けますので、今はこのままでいさせてもらえないでしょうか?

 この部屋でのことは決して他言致しませんので、お目溢しをお願い申しあげます」

 エミリアナがはっとして、鼻水を垂らしながら姉のほうを振り向いた。

「お、おねえしゃ」

「大丈夫よ、エミリアナ。その()を罰する気はないわ。

 貴女と同郷で領主直轄孤児院の出身だと聞いたから、面識があるのかと思って会わせたのよ。

 先に知らせたりしたら、貴女が知らないフリをするかもしれないと思って伝えなかったのだけど・・・」

 ルイシーナが苦笑して、ミレイアに指示をだした。咎め立てしそうだったミレイアは主の意に従って頭を下げる。

「貴女が落ちつくまで、わたくしは席を外すわ。二人で積もる話もあるでしょうから、わたくしは隣室にいるわね」

「お嬢様、ありがとうございます」

 テオドラが頭を下げて、エミリアナもふぇっと泣きながら頷く。

 ミレイアがワゴンを押して主人の後に続き、ルイシーナは隣室のプライベートルームでお茶をいただくことにした。


「お嬢様、何か心配ごとですか?」

 ミレイアの問いにお茶をいただいてほおっとしたルイシーナは首を傾げた。

「心配することはないと思うわよ?

 彼女はエミリアナと親しかったのでしょう。エミリアナが嬉し泣きして抱きつくほどなのだし」

「いえ、エミリアナ様のことではなくて。お嬢様の元気がないように見受けられましたので」

「そう? わたくし、元気がないように見えて?」

 ルイシーナは苦笑いしてティーカップを下ろした。ミレイアが心配そうに頷く。

「ええ、僭越ながら、お嬢様は少々ショックを受けておられるのではないかと思いまして。

 エミリアナ様があんな風に大泣きするのは最初の時以来ありませんでしたし」


 ミレイアにはエミリアナが仮婚約者に選ばれた時点でエミリアナの素性を教えていた。

 エミリアナが王家と縁続きになることで父ルカスの発言力が増したのだ。専属侍女で一番信頼できるミレイアに全てを打ち明けて全面的な協力を得ることにした。エミリアナの筆頭侍女はミレイアの妹だったから、彼女を巻き込むためにもミレイアには知らせたほうが都合がよかった。


 ルイシーナはふうとため息をついた。

「そうねえ、エミリアナはすっかり令嬢らしくなっていたから、泣かれたのには驚いたわ。

 それにあの()は動じていなかったのも意外というか・・・。

 神父様と手紙のやり取りも禁じられたし、ずっと会ってもいなかったのに、ぎこちなさなんてなかったわね。久しぶりに会ったのに、随分と親しげだったわ。

 ・・・わたくしね、エミリアナのことは本当に妹のようだと思っていたの。でも、彼女と接しているエミリアナを見たら、全然違うなって思ったわ。

 わたくしに対してはまだ遠慮があったのだとわかったわ。それがちょっとだけ、ね」

「エミリアナ様はお嬢様を信頼しておいでですわ。この家で一番の味方だと思っておられるでしょう。

 妹から聞いております。エミリアナ様はルイシーナ様に恥をかかせないように頑張っていたのだと。

 幼馴染に対する気安さとは異なりますが、お嬢様にも慣れ親しんでいると思います。ただ、お嬢様には尊敬の念があるから、気軽になれないだけでしょう」

「・・・そうかしら?」

「ええ、そうですよ」

 ミレイアは力強く頷いた。珍しく気弱な主を気遣って励ましたかったのだ。


 ルイシーナを育てた祖父母はすでに亡くなっている。祖父は流行病の終息時に運悪く罹患し、祖母はイラリオとの縁談が内定した時に気の緩みからか肺炎にかかった。

 祖母の喪が明けてから正式な婚約となったが、ルイシーナを慈しみ守り導いてきた祖父母はもういない。両親は当てにならず、ルイシーナは淑女の仮面を装備していつも気を張っていた。唯一、素の表情が出るのは幼馴染のイラリオと会う時くらいだ。それも淑女教育が進むに連れて取り繕いが上手くなっていったが、エミリアナを妹に迎えて取り繕えなくなった。

 平民だったエミリアナに貴族の流儀は理解されない。本音で接しないとあらぬ誤解を受けてしまうのだ。相互理解のためにルイシーナは両親の前以外では素でいるようになった。

 血のつながりはないが、エミリアナだけが今のルイシーナの家族になっている。

 そのエミリアナにもっと家族らしい相手が現れて、主は少しだけ感傷的になっているのだろう。

 ミレイアは主のためにとっておきのお茶を淹れて振る舞った。


 


 フィデルはギルドの受付嬢に声をかけられて思いきり顔をしかめた。

 新人の受付嬢で手際が悪いのは仕方ないのだが、やたらと男性冒険者に馴れ馴れしくて苦手だった。知り合いの女性冒険者によると、同性相手には塩対応で二面性のある相手らしい。


「フィデルさん、お手紙を預かっています。居住地では連絡が取りづらいだろうからって、ギルドに届けたらしいです。

 忙しくて居住地に戻ってないのですか? ダメですよ、休息はちゃんと取らないと。

 冒険者は体が資本なんですから、休む時はちゃんと休んでくださいね」

 受付嬢はにこやかな笑みで手紙を渡すと、親切そうに忠告してくるが、近くの女性冒険者がしら〜と白い目をしている。きっと、同性には親切の欠片もない対応なのだろう。


「どうも」

 フィデルは素っ気なく手紙を受け取って足早に離れようとした。

「フィデルさん、女性からのお手紙ですけど、もしかして恋人ですか?」

「あんたには関係ないだろ」

 心配そうに顔を曇らせる相手を一刀両断すると、受付嬢はうるっと瞳を潤ませた。

「そんな・・・。わたしはただ心配なだけです。フィデルさんは一年でC級に上がった凄腕冒険者ですから。

 女性が放っておかないです。変な人に絡まれたりしたらギルドで相談に乗りますからね」

「知人からの手紙だ。変な邪推はやめてくれ。迷惑だ」

「そんな迷惑だなんて・・・」

 受付嬢が悲しそうに俯くと、ざわりと騒がしくなった。主に周りのヤローどもだ。


「クララちゃん、かわいそー」

「優しいクララちゃんの気遣いを迷惑とか。おい、お前、酷いだろう?」

「いい気になってんじゃねえぞ、小僧」

 凄んでくるベテラン冒険者もいて、フィデルはうんざりと頭を振った。


 フィデルは十七歳になってすぐにC級に上がった。数年かかるところを目標通り、一年に縮めた。先輩の勧めで一時的ではなく、本格的にパーティーを組むために領都までメンバーを探しに来ているのだが、どうにも上手くいかない。原因は目の前のこの受付嬢だ。

 受付嬢が気にかけるせいでフィデルは独身男性に評判が悪かった。下手をすると、既婚者や恋人がいる相手でもやっかまれる。

 せっかく領都までやってきたというのに、領主のお嬢様は貴族学園の入学準備で忙しく、姿を見かける暇さえなかった。それどころか、メンバー探しに右往左往している間にお嬢様方は王都へ出発してしまった。

 これまでの稼ぎは滞在費で飛んでいくのに、収穫はなしだ。

 ただでさえ意気消沈しているのに、あざとい受付嬢が鬱陶しいことこの上なかった。


「ご安心を、おれは居住地に戻りますので」

 フィデルは吐き捨てるように告げてギルドを後にした。受付嬢の呼びとめる声は無視だ。

 先輩には申し訳ないが、事情を話してもう少しパーティーに加えてもらうしかないだろう。

 気落ちしたフィデルは歩きながら手紙を読んでみた。テオドラからで何か知らせがあるのかと思えば、内容はたった一行だけだ。


【 嬉し泣きされたわよお! 】


「はっ? なんだ、これ?」

 フィデルは眉間に深いシワを寄せた。

 筆跡は確かにテオドラのものだ。どことなく、自慢げというか、ふふふんと鼻で笑われた感じがする。

 テオドラは領主邸に雇われたはいいものの、しばらく採用期間で礼儀作法を一から叩き込まれていると聞いていたのだが、誰に『嬉し泣きされた』のか?

「・・・まさか、エミリに会えたのか?

 あいつ! もっと、まともなこと書けよっ!

 会えたなら、エミリの様子とか書くことあるだろうがっ」

 フィデルはケンカを売っているとしか思えない内容に怒り狂った。そのおかげか受付嬢の不愉快さなど遥か彼方に吹き飛んで行った。

 領都がダメなら、隣の領でも王都でもどこでも行ってやる! 絶対にB級にあがってやるからな!

 フィデルは決意を強く改めて、早足で歩き去った。

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