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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第三章 仮婚約者のエミリアナ

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二十二幕

第三章開始、エミリアナは十五歳になりました。

『こいつ、嫌いだ』と思ったものの、エミリアナは表面にはださなかった。淑女教育の賜物の微笑みを浮かべて、第三王子カルロスと向かい合う。

 エミリアナは家に戻ったら、【生活雑貨作製】でこいつの顔をしたサンドバックをだして八つ当たりしてやると強く決意していた。


 エミリアナは春から始まる貴族学園に入学するために二月前から王都入りした。姉のルイシーナやイラリオも一緒だ。

 タウンハウスから学園に通うことになって、入学準備を始めたところ、王家から招待状が届いた。

 貴族学園で交流を深めるよう指示されていた仮婚約者との顔合わせだ。さすがに王城への付き添いは当主のルカスで、エミリアナは久々に侯爵と顔を合わせた。


「よいか、エミリアナ。カルロス殿下のお気に召すように振る舞うのだ。引き取ってやった恩を返すよい機会だ、存分に励め」

「・・・はい」

 エミリアナは言葉少なに答えて、侯爵の話は適当に聞き流した。

 淑女教育で表情の制御を教わっていてよかったと、この時ほど思ったことはない。侯爵の言い様には反抗心MAXで倍にして言い返したいところだが、価値観の合わない相手と議論するだけ無駄だ。心の中でだけ、思いきり不平不満をぶちまける。


 侯爵と馬車に乗るという苦行を終えたエミリアナは王城に到着しただけで疲れてしまったが、背筋を伸ばして姿勢を崩しはしない。

 一番小さな謁見の間で国王夫妻との挨拶があった。王妃とはお茶会や音楽会のサロンに招待されたりで顔を合わせていたが、国王と会うのははじめてだ。

 金髪に青い瞳で王太子やイラリオの色合いと似ている。確かに彼らと比べると、カルロスは薄い色で見栄えはよくない。


「此度は仮婚約を引き受けてもらい感謝する。我が家の事情に巻き込んでしまってすまないが、迷惑料として相応の報酬は与えよう。

 この仮婚約が成立するか否かは学園での成長具合も考慮するので、まだなんとも言えぬが。もし、不成立となった場合でも、そなたにはよい縁談を用意するから安心してほしい」

「もったいないお言葉でございます。王家に尽くすのは臣下として当然のことでございますが、お気遣いいただき至極光栄でございます」

 エミリアナに向けられた言葉なのに、当然の如くルカスが応じた。エミリアナは淑女の微笑みの完全装備だ。


「国王陛下にお礼を申し上げます。お申し出は大変嬉しく存じますが、父の言う通り、大変恐れ多いことでございます。

 報酬と言うならば、わたくしの縁談は次期当主である姉や婚約者のライネス公爵令息とも相談して決めることをお認めいただきたくお願い申しあげます」

「いきなり、何を言いだす? 陛下の御前で無礼であろう⁉︎」

 ルカスが目を剥かんばかりの勢いで叱責してくるが、エミリアナはおっとりと微笑んだままだ。


「まあ、陛下の御前でそのような大声をだすほうが失礼ではありませんか?

 わたくしは()()()()であるルイシーナお姉様の意向に従っているだけですわ。お姉様はセルダ家にとって()()()()()()()()()()おられるのですから」

 ルカスに向かって貴族的な言い回しで『繋ぎの当主』でしかないと告げると、彼は険しい目になった。

 元男爵子息だったルカスは『繋ぎの当主』と見られるのを何よりも嫌がっている。エミリアナにとっては精一杯の仕返しだった。

 ルカスから不機嫌なオーラが滲みでたが、軽やかな笑い声に蹴散らされた。


「ほほほほ、本当に姉妹仲がとてもよいのね、羨ましいわ。

 我が家は男の子ばかりで華やかさに欠けるもの。侯爵も愛娘たちの仲が良好で安心でしょう。侯爵家の将来は安泰ですわね」

「はっ、王妃様の仰る通りでございます」

 ルカスが即答で取り繕った。内心では不満だろうが、さすがに侯爵家当主らしく振る舞っている。

「ふむ、イラリオとルイシーナ嬢の仲も良好だと聞く。次代の友好関係を思うと、二人の意向を確認したほうがよさそうだ。

 一先ず、報酬の縁談話は保留としておこう」

 国王の言葉にルカスも反論はできない。ルカスは仮婚約に関する詳細な手続きで残り、エミリアナだけカルロスとの顔合わせの場に移動することになった。


 エミリアナが案内されたのは温室内のサンルームで、周りには色とりどりの花々が咲いていた。目にも鮮やかで鑑賞のしがいがある。殿下がもうすぐ来るのでお待ちください、と案内の侍女に説明された。

 お茶を淹れてもらって待つことしばし、遅れたくせに尊大な態度で現れたカルロスは開口一番に宣った。


「なんだ、全然ルイシーナに似てないな。本当に姉妹なのか? 焦げ茶の髪に暗い緑の瞳とか、庶民みたいだ」

「・・・第三王子殿下におかれましては、お初にお目にかかります。セルダ家次女、エミリアナと申します」

 エミリアナが姉仕込みのカーテシーを披露すると、ふんと鼻で笑われた。

「庶子のくせに、なかなか様になっているではないか。()()()婚約者となるのだから、私の恥にならぬよう努めよ。

 ただでさえ、地味な見た目なのだ。そばに置いてやるだけでもありがたく思え」

「・・・参考までにお尋ねいたしますが、殿下はこの仮婚約にご不満がおありなのでしょうか?

 ()ですので、いつでも解消は可能と伺っておりますが?」

「はっ? まさか、たかが侯爵令嬢の分際で解消したいとでも言うのか?

 王家からの縁談なのだぞ、無礼であろう!」

 カルロスは威嚇するかのように大声をあげたが、エミリアナは首を傾げるだけだ。


「いえ、候補筆頭になっているだけで、他にもっと相応しいお相手が現れれば、わたくしはお役御免と伺っておりましたので。

 殿下がお心に決められたお方がおられるならば、わたくしは早々に辞退するべきだと思いまして」

「ほお、弁えているではないか。そうだ、ただの候補なのだからな、図に乗るなよ」

「かしこまりました。殿下の仰せのままに」

「ああ、私の邪魔だけはするなよ。学園でお前と交流しろと言われているが、私には次代を担う役目があるのだ。

 お前よりも他の者たちと交流したほうが王家のためになる。学園内で婚約者面して私に侍るのは禁じておく」

「はい、確かに承りました」

 エミリアナが深く礼をとると、カルロスが満足げに頷いて退出する。エミリアナはゆっくりと顔をあげて、心の中でだけこぼした。


 ないわ〜、ないわ〜、あり得ないわ〜。何、あれ。

 カルロス(アレ)だけは絶対にイヤだわ、お姉様にご注進しようっと。


 第三王子カルロスと仮婚約者エミリアナの初の顔合わせはこうして終了したのである。


 エミリアナが再び侯爵と馬車に乗るという苦行を終えてタウンハウスに戻ると、イラリオが来ていた。ルイシーナに誘われて、早速三人でお茶会という名の情報交換会だ。

 日当たりのよい応接室にお茶の支度を整えてもらうと、侍女たちには少し下がってもらった。

 ルカスの目があるので、最初は学園の入学準備についてなど当たり障りのない話をしていた。ルイシーナ付きのミレイアだけが給仕に残ると、イラリオが念の為に風の幕を周囲に巡らした。内緒話の始まりだ。

 エミリアナが陛下との謁見からカルロスとの顔合わせまで全て話し終えると、イラリオが頭を抱えそうな勢いで俯いている。


「うそだろ? 女性の容姿を貶すなんて、カルロスはどういう紳士教育を受けているんだ。あり得ないんだけど?」

「わたくしとエミリアナはお互いの母親似だもの。似てなくて当たり前でしょうに、何をほざいていらっしゃるのかしら?」

 ルイシーナが目だけは笑っていない微笑みを浮かべている。イラリオが申し訳なさそうな顔になった。

「エミリアナ嬢、すまない。

 カルロスはもともと臣籍降下予定の上に流行病や兄たちの不幸のせいで教育が遅れているそうなんだ。伯父上には報告して改善を促すから、今回は大目に見てくれないか?」


 エミリアナはにこりと微笑んだが、目だけはマジである。

 いくら教育不足でも言っていいことと悪いことの区別はつくはずだ。要するに、カルロス(ヤツ)はエミリアナを見下しているのだ。エミリアナは仮でも婚約候補相手を敵認定していた。


「どうか、お気になさらずに。イラリオ様は何も悪くありませんから謝らないでくださいな。

 それに陛下への報告も不用です。殿下から婚約面して侍るなと命じられましたので、従おうと思っています。父からも殿下のお気に召すようにと言われましたし。

 陛下からは婚約不成立の場合は縁談を用意してくださるとお申し出があったので、きっと成立の望みは薄いと思われているのでしょう。無駄な交流は控えたほうがいいですよね、お互いに。

 だから、わたくしは学園では少し手を抜こうと思います。お姉様、構いませんよね?」

「そうねえ、貴女の教育は順調で家庭教師の方々からは合格をいただいているし」

「ダンス以外は、だろ?」

 イラリオが突っ込んできて、ルイシーナもエミリアナも顔を見合わせて苦笑いだ。

 確かにダンスだけは未だにリズム感に乗り切れていない。及第点ギリギリで、かろうじて相手が避けてくれるから足を踏んでいないレベルだ。ダンスが苦手な相手と組んだら、壊滅的になりそうだった。


「まあ、苦手なものは仕方ないわよ。それに、我が家の名を貶めない程度に手抜きをするつもりなら、ダンスが苦手でちょうどいいかもしれないわ」

 ダンスは貴族の社交で必須科目だが、将来は平民に戻りたいエミリアナにとっては熱心に学ぶ意欲が湧かない。これ以上、ダンスの授業に時間をかけなくて済むのは幸いだった。

「チャベス侯爵令嬢はダンスが上手いらしい。彼女は語学や歴史など座学は苦手で、華やかな社交が得意なんだって。特に流行り物については他国の情報にも精通しているってさ」

 イラリオが母からの情報を披露すると、ルイシーナも頷いた。


「ええ、センスもよくて王都の若年層の間ではファッションリーダーになっているらしいわ。

 お茶会の噂では殿下がおいでになる催し物には必ず参加して熱心に話しかけていたそうよ。周囲には友人になったと言いふらしているのですって」

 チャベス侯爵令嬢のアナスタシアはずっと王都住まいで王妃主催のお茶会に出席後は社交に精をだしていた。頻繁にお茶会に参加していたし、自家でも開いて高い評価を得ているという。

「チャベス家からお茶会のお誘いがきていたわ。入学前にご挨拶をしたいとのことだったけど、何か企んでいるのではないかしら?」

「彼女は自家でのお茶会では必ずスキルを披露して自慢しているらしいよ。当たりのレアスキル持ちだって自己アピールしているんだろう。

 エミリアナ嬢とカルロスは仮婚約だから、チャベス家では外堀埋めを狙っているんじゃないかな」


 イラリオの情報にエミリアナがぱあっと顔を輝かせた。

「ぜひとも、お譲りしたいです。ええ、熨斗をつけて差しあげたいくらいです。

 お姉様、全力でチャベス様を推しましょう! 殿下をプレゼントしてチャベス家に恩を売るといいですよ」

 ぐっと握り拳で迫ってくる妹にルイシーナは苦笑する。

「プレゼントって・・・。貴女は本当にブレないわねえ。王妃様のお茶会でも殿下のことは対象外だったし。

 お友達とのお茶会では『頼りがいのある人』が好みって言ってたけど、本心だったのかしら?」

 エミリアナはルイシーナの友人たちとのお茶会で好みのタイプを吹聴していた。王家への牽制だったが、奮戦虚しく仮婚約者になってしまってがっかりした。だが、まだ諦めてはいない。

 せっかく、カルロスから干渉するなとお墨付きをいただいたのだ。有効利用する気満々である。


「ええ、頼りがいがある年上の方が好みです。努力家で運動が得意で、兄貴分みたいなタイプがいいです」

「へえ、それだと騎士がタイプかな?」

「もっと、砕けたほうがいいですね。・・・例えば、上級冒険者とか」

「あら、やけに具体例がでたわね?」

 ルイシーナに不思議そうな目を向けられて、エミリアナはそっと視線を逸らした。

「えっと、孤児院で奉公先が見つからない男子は冒険者になっていたので、先輩を参考にしました」

「まあ、領主直轄の孤児院でもそうなの? おばあ様が領内の孤児たちに勤め先を斡旋するように通達したはずなのに」

「・・・不真面目な職員だと奉公先を探してくれないので、自力でなんとかするしかないのです。

 事情があって養子の申し入れを断ったりすると、職員の不興をかって見つけてもらえないですし」

 エミリアナがベルナルダのことを思い浮かべて説明すると、ルイシーナが驚いている。


「あら、養子先は孤児の意思を尊重してお断りしてもいいことになっているのに、そんなことになっていたの?

 領主直轄孤児院は教育に力を入れているから奉公先には困らないはずなのに」

「孤児院の経営だけではなくて運営にも監査を入れたほうがいいね。

 学園の経営科コースでは現地視察のレポート作成もあるから、ちょうどいい。視察で運営状態も見てみようよ」

 イラリオが提案してきた。婿入りなので領内の経営状態も把握しておかないといけない。彼も二年目の専門コースからは経営科に進む予定だ。

 エミリアナは侍女・従者科に進みたかったが、仮婚約のせいで淑女科を選ぶしかなくなった。高位貴族女性は王家の女性のお付きや相談相手にもなるので侍女・従者科でもおかしくないのだが、婚約成立の可能性もあるから女主人の振る舞いを身につけたり、邸内の運営や掌握術を学ばないといけないそうだ。

 エミリアナは学園に入る前からやる気を削がれてしまったが、候補から外れるために手抜きでよいとお許しを得ている。学園ではのんびりと過ごそうと思っていた。

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