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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第二章 貴族令嬢のエミリアナ

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二十一幕

 フィデルが暮らしているのは南国と隣国を結ぶ要所のバラハ町だ。

 領都とバラハ町の間には沼地にダンジョンがあって主要街道は沼地を迂回する形で通っている。領都とは乗合馬車で五日ほどかかり、領都で流行った噂が流れてくるのは一カ月後くらいだった。

 フィデルは先月神父に呼びだされたのに、またお呼びがかかって首を傾げていた。冒険者の活動が忙しくなって、教会に顔を出す回数は減っていた。最近はエミリアナからの手紙のことで呼びだされた時にしか出向いていない。


「神父様、何かあったのか? もしかして、エミリアナのことで何かわかったとか?」

「お主は相変わらずじゃのう・・・」

 エミリアナとそれ以外の反応に落差がある少年に神父が苦笑して手紙を取りだした。

「ルイシーナ様からスキルの相談の形でも手紙のやり取りはこれで最後だと通知がきた。なんでも、エミリアナは第三王子殿下の仮婚約者になった、とのことだ。

 領都で噂になっていて、スキルの相談をしているとハズレスキルだと言われるかもしれないそうでな」

「はっ⁉︎ 仮婚約者ってなんだよ、それ。 エミリは領主の子供じゃないんだ。婚約できるわけないだろ?」

 フィデルが思いきり不快げに顔をしかめた。もしかしたら、と示唆されていた展開でも怒りが込み上げてくるが、()婚約者とか、意味不明だ。


 神父がため息をついて、頭を振った。

「落ちつきなさい、フィデル。

 どうやら、王子殿下の配偶者は他国との縁組も視野に入れているらしい。エミリアナが婚約者候補筆頭になったが、いつでも解消可能でより良い相手を見繕うまでの繋ぎだそうだ。

 これから、殿下たちは貴族学園に入学して他の貴族令息令嬢たちと交流を持つ。貴族学園での成長も考慮して最終的に殿下の配偶者を決定するから、エミリアナに決まったわけではない。

 王太子殿下は昨年婚姻なさったが、子宝に恵まれるか不明だ。もしもの場合はカルロス殿下の子供を養子にするか、カルロス殿下が王太子となられる可能性もある。それで婚約者選びは難航しているそうだ」

「候補筆頭とか、繋ぎとか。エミリをなんだと思っているんだ。

 はっ、王家って性格悪いヤツしかいないのか?」

「フィデル、気をつけなさい。誰かに聞かれたらマズい発言だぞ?」

 神父が不機嫌に吐き捨てたフィデルを窘めた。フィデルは皮肉げに口角をあげる。

「相手は選んでるさ。神父様はおれを売ったりしないだろ?」

「はあっ、私相手でも気をつけるのだ。教会には貴族からの使いがくることもある。どこから何が伝わるかわかったものではないからな。

 首尾よく上級冒険者になっても貴族に目をつけられると、何かと厄介なことになるであろう。・・・人知れず潰される可能性もあるのだぞ?」

「・・・わかったよ、神父様」

 フィデルは案じる神父にしぶしぶと頷いた。確かに貴族を敵に回すのは得策ではない。


 冒険者活動を始めて半年でD級になった。通常よりも早い昇級だが、才能がある者ならば珍しくもない。C級にあがるのにどれだけかかるかで今後が決まるとも言われている。数年かかるところを一年くらいにしたいと思っているが、昇級は段々と厳しく難しくなっていくものだ。

 ようやく、C級になっても、エミリアナは貴族学園に通って王子の仮婚約者扱いになるかと思うと、吐き気が込み上げるほど醜悪な気分だ。

 B級に上がってもすぐに貴族家とコンタクトが取れるわけではない。そこからさらに何年かかれば侯爵家と渡り合えるようになることか。まだまだ時間がかかるのに、下手をすると成人と共にエミリアナの仮婚約が本当の婚約になってしまうかもしれない。

 フィデルがぎりっと音がしそうなくらい強く奥歯を噛み締めると、神父に手紙を差しだされた。


「エミリアナからお主に宛てた手紙だ。これが最後になる。

 何が書いてあっても受け入れるしかないと、覚悟しておきなさい」

「何が書いてあっても? ・・・どういう意味だ、神父様?」

 首を傾げるフィデルに神父は厳しい顔になった。

「跡取りであるルイシーナ様が王妹の次男であるイラリオ・ライネス様と婚約したのだ。その上、エミリアナまで縁付くのはセルダ家と王家とのパイプが太くなりすぎる。あり得ないと思っていたのだが、エミリアナが婚約者候補筆頭に選ばれた。

 現時点ではエミリアナが一番有力で優秀な候補なのだろう。

 エミリアナには辞退するすべなどないのだ。いくら、ルイシーナ様が気配りしてくださっても、貴族令嬢の婚姻は当主である父親が決めるものだからな。

 当人が望んでいなくても、当主から命じられれば令嬢には断れないし、逃げられない。

 エミリアナが令嬢教育を受けて二年も経っている。以前とは違って、令嬢の義務と権利を叩き込まれているであろう。

 ・・・エミリアナの気持ちが以前とは変わっているかもしれない。それを踏まえておきなさい」

「まさか! エミリとは家族だ、ずっと一緒だって約束したんだ! そんなことはあり得ない」

 フィデルは苦渋する神父に叫ぶように言い返した。

「・・・そうか」

 神父は悲しそうな眼差しを返すだけだった。




「フィデル! そっちに行ったぞ!」

 リーダーの掛け声にフィデルははっとした。

 毒持ちの大型蛙が跳びついてくる。フィデルはとっさに地に伏せて躱したが、沼地のぬかるみで泥だらけになってしまった。ぬるっとした足場ですぐには体勢を直せない。

 双剣使いが大型蛙を斬り伏せて怒声をあげる。

「ぼおっとすんな! 命取りになるぞっ!」

「はいっ! すみません」

 ようやく、立ち上がるのに成功したフィデルは気を引き締めた。


 沼地のダンジョンは中央の小島にダンジョンへの入り口があるが、そこへ辿り着くのも一苦労だった。ダンジョンから溢れて外に順応した水棲系の魔獣が棲みついているのだ。

 沼地ゆえに火系の魔法や武器は役に立たない。足場も悪くて物理攻撃もヌメリに負けることもある厄介さだ。

 足場になる飛び石が埋められてはいるが、石畳というほど立派なものではない。フィデルの氷魔法は地面を凍らせて固めるので重宝された。棲みついている魔獣ごと凍らせるので、ダンジョンの入り口に到達しやすい。無駄な労力を減らせてダンジョンに注力できるのだ。


 フィデルはD級に上がってからパーティーに所属するようになった。ソロ活動で依頼をこなすには限りがあるし、特に未成年者がダンジョンに潜るにはパーティー参加が義務づけられていた。

 孤児院をでた先輩が兄弟で組んでいるパーティーに一時的に参加させてもらっている。兄弟はC級に上がったのを機会にそれまでのパーティーから抜けて新たな仲間を探しているところだった。

 ギルドからの紹介でパーティー編成を考え中の相手とお試しで組んでいた。

 気を抜いて足を引っ張るなんて最低最悪だ、とフィデルは自己嫌悪に陥りそうだったが、反省は後回しで今は魔獣の警戒に専念した。


 ダンジョンの入り口に到達すると、フィデルはリーダーのヘルマンに待機を命じられた。抗議しようとすると、片手を上げて制される。

「フィデル、今日のお前は調子が悪い。自分でもわかっているだろ?

 本調子でないヤツがダンジョンに挑むとか、自殺行為だ。ここで待機していろ」

「そんな! ここまで来て」

「お前一人だけではない。パーティーメンバーも危険にさらされるかもしれない。それでも、ダンジョン内に入るというのか?」

 フィデルはぐっと言葉に詰まった。

 外の魔獣よりもダンジョン内の魔獣のほうがより凶暴で強力だった。ダンジョン内のほうが濃厚な魔力に満ちた世界で、外に適応した魔獣は魔力が抜けてきているとされているのだ。

 双剣使いも剣の点検を終えてから、フィデルの肩をポンと叩いた。


「ダンジョンに挑戦できなくて悔しい気持ちはわかる。でもな、冒険者は危険と隣り合わせの仕事だ。

 お前は期待のルーキーと呼ばれているが、まだ駆け出しには違いない。無理せずにここは耐えろ。

 長く冒険者家業を続けるつもりなら、無理は禁物だ」

「そうだよ、フィデル。ダンジョン探索はまだ数回くらいでしょ?

 今までは様子見ですぐに戻っていたから、参加したい気持ちはわかるけどさ。僕らも新パーティー結成できるか否かの見極めで、お互いの腕試しをしなきゃいけないんだ」

 ヘルマンの弟も装備を確認して厳しい表情だ。

 今の状態では足手纏いと宣言されたようで悔しかったが、何も言葉は返せなかった。フィデルは力なく頷いて、ダンジョン内に突入する先輩たちを見守るしかなかった。


 フィデルは未練がましくダンジョンの入り口を見つめていたが、しばらくしてため息をつくと、そばの岩に腰掛けた。ぐしゃりと髪を掻きあげると、乾いた泥の粒が落ちてきた。

 顔についた泥は拭いたものの、撥ねて髪についた泥までは全て拭き取れなかった。帰ったらよく洗うしかない。

 先輩に迷惑をかけてしまって落ち込むばかりだが、不調の原因は自分ではよくわかっている。


 エミリアナからの最後の手紙がずっと気にかかっていた。


 高級そうな便箋にただ一行だけ書かれた言葉は見慣れた筆跡ではなかった。丸っこい文字ではなく、文字のお手本となりそうな綺麗に整った文字となっていて、どこか他人行儀な感じがした。

 最初は本当にエミリアナの手紙なのか疑った。


【 フィデルとはずっと家族だよね 】


 確かにそう約束した。内容的にエミリアナの自筆なのは間違いないが、どういう意味で書いてきたものか不明だった。

 第三王子の仮婚約者になったことには触れていない。噂で伝わると思ったのか、家族でも会う手段もないフィデルに知らせることはないと判断したのか。

 一体、家族だからなんだと言うのだ。今では会うことも手紙を交わすこともできない。家族とは名ばかりの存在になってしまったと言うのに。

 もしや、貴族令嬢になっても、王子の仮婚約者になっても家族に変わりはないと告げたかったのか? それとも、家族だから、仮婚約を祝福してくれと言いたかったのか?


 神父からエミリアナの近況は教えてもらっていた。令嬢教育に励んでいて、養子先の恥にならぬように頑張っているとのことだった。

 跡取りの異母姉が貴族学園に通うようになったら、領地の主要都市へ視察に行くそうだ。一緒に連れて行ってもらう約束をしたとか、この前の手紙には書かれていた。

 バラハの町は南国と隣国との要所だから、視察となれば絶対に訪れるはずだ。なんとか、一目顔を見るだけでもできるかもしれないと希望を抱いた矢先に仮婚約の話で、神父との手紙さえ終わりになるなんて。


 エミリアナの様子を知る手段が失くなってしまった。そして、彼女からの最後の言葉が『ずっと家族だよね』とは?


 もしかしたら、お別れの意味で書いたのかと思うと、冷静ではいられなかった。

 神父の言う通りに令嬢として生きる道を選んでしまったのだろうか。他の道は選べないと諦めてしまったのか、まさか自ら望んで選んだのか。後者ならば、フィデルが上級冒険者となって会いに行っても迷惑になるだけだ。

 フィデルはこのまま上級冒険者を目指していいものか迷い始めていた。

 貴族令嬢のエミリアナと会う目的がなくなれば、昇級を焦る必要はなくなるのだ。

 フィデルはモヤモヤとした思いを持て余して、またぐしゃりと髪を掻きあげた。


「あんた、何やってるの? バカなの、死ぬつもりなの?」

 冷たいなんて生易しい声音で、テオドラがフィデルを見下ろした。

 フィデルは院の夕食の時間に間に合わなくて厨房で残り物を貰っていた。もそもそと不味そうに口にしていたら、絶対零度の美少女からの詰問である。

「はっ? いきなり何だよ」

「今日、ダンジョン内に入るのを断られたそうねえ。ヘルマン先輩たちに迷惑かけてるんじゃないわよ」

「・・・なんで知ってるんだ?」

「マルコスがダンジョン方面の門に行ってたのよ。先輩たちが話してたのが聞こえたらしいわよ」

 フィデルはちっと舌打ちした。


 剣士のスキル持ちのマルコスは門番の手が空いている時に稽古をつけてもらいに行っていた。

 兵士見習いになるのは成人の一年前からだが、剣の訓練だけは十三歳以上から参加可能だった。もし、万が一にでも、沼地のダンジョンがスタンピードを起こした場合に備えているのだ。冒険者だけでなく、一般市民でも戦える人材は確保しておいたほうがよい。

 今ではマルコスの剣の腕前は兵士長クラスになっていた。冒険者となったフィデルでもマルコス相手では三本に一本取れるかどうか、である。

 ダンジョン方面には門番の中でも腕の立つ者が配置されている。兵士長の手が空いていなくても、それなりに相手になる腕前の兵士がいるので、マルコスはよくダンジョン方面の門に出かけていた。


「マルコスが心配してたわよ? あんたね、やる気がないなら、無理な活動は控えなさいよ。

 ただでさえ、冒険者は一番死傷率が高い仕事なんだから」

「そんなことは言われなくてもわかってる」

 むすっと答えるフィデルを腕組みしたテオドラがジト目で見下ろす。

「どうせ、エミリアナの手紙で腑抜けたのだろうけど、あんたって案外だっさいのねえ?」

「・・・お前には関係ないだろ」

 フィデルは強張った顔でそっぽを向いた。


 エミリアナの手紙はテオドラがしつこくせがむから仕方なく見せた。テオドラには関係ないと突っぱねても、最初の手紙にちょっとだけテオドラの名前があったから、テオドラは手紙を見せない限り引き下がらなかったのだ。

 尤も、見せたら見せたで、うるさいのに代わりはなかったが。

「なんで、あんたの名前しかないのよ!」と喚いて面倒だったから、「そんなの知るか」と言い返して放っておいた。確か、マルコスが宥めていたはずだ。


「ふん! うじうじしてて鬱陶しいわねえ。そんなに気になるなら、本人に確かめればいいのよ。

 どういうつもりで書いたのかってね」

「どうやって確かめるって言うんだよ」

 フィデルが吐き捨てると、テオドラが優越感に満ちた顔になる。

「ふふん。あたしは家業で料理人見習いになるのよ、領主邸のね」

「領主邸って・・・、まさか、領都のか?」

 驚くフィデルにテオドラは得意げに胸を張った。

「あたしのかぼちゃプリンを領主のお嬢様がお気に召したそうよ。お養父(とう)さんが推薦してくれたのよ」

 プリンは今ではバラハ名物になっていた。プリンを気に入った職員があちこちに広めて、プリンをだすお店が登場して種類も増えた。

 プリン発祥の孤児院でテオドラが色々と試作しまくった結果だった。かぼちゃプリンやキャラメルプリンなど、ヒット商品になっている。領都でも評判になってきているとは聞いていた。


「新作を手土産にすればお嬢様と直接お話しする機会があるはずだわ。お嬢様はエミリアナを妹として可愛がっているらしいから、エミリアナにも会えるはず。

 あんたが拗ねている間に、あたしはエミリアナに会いに行くからね!」

「・・・会ってどうするんだよ。もう、エミリは貴族のご令嬢なんだぞ。これまで通りになんてできないだろ」

「建前ではそうでしょうけど、エミリアナの本心はわかんないじゃない。お貴族様の流儀で窮屈な思いをしているかもしれないでしょ。

 大体、手紙だって、検閲されてるんだから。本音を書くわけないじゃない。

 それをうじうじぐたぐたと気にして、先輩冒険者の足を引っ張るとか、あんたってホントだっさいわ〜」

 テオドラがふっと鼻で笑って小馬鹿にしてくる。むかっとしたフィデルが言い返そうとすると、まだ中身の入っている深皿を取り上げられた。


「おい、何するんだ」

「お代わりあげるから、しっかりと食べなさい。冒険者は体が資本なんだから」

「いや、それ明日の朝ごはんじゃ?」

「つべこべ言わないの! 明日、朝寝坊したヤツの分が減るだけよ」

 テオドラが大盛りにして深皿を返してきた。受け取ったフィデルが困惑していてもお構いなしだ。

「エミリアナが貴族令嬢として生きるつもりなら、わざわざ手紙なんか書かなくてもすむわよ。ただの孤児なんか無視できる立場なんだから。

 それなのに、たった一言だけでも書いてきたのよ? 思うように書くことができないだろうに、ね。

 あんた、それをわかっててぐちぐち悩んでるわけ? エミリアナのほうがよっぽど大変な思いをしてるんじゃないの?

 貴族令嬢になったって、エミリアナが孤児だった過去は変えられないんだから。絶対、(あげつら)うヤツはいるわよ。

 エミリアナが高位になればなるほど、つつかれるはずだわ。

 あんた、それを黙って見てるつもり? 家族のくせに、見捨てるのかしら」

「見捨てるとか言うな! ただ、エミリが望んだことなら仕方ないだろ」

 フィデルが睨みつけても、テオドラは怯まなかった。ふふふんと、鼻を鳴らして偉そうに腕を組む。


「だから、本人に聞いてみるのよ。あんたが拗ねていじけて立ち止まっている間に、ね。

 あたしが一番の親友だって、わからせてあげるわよ。あんたは黙って見てなさい」

 テオドラは自信満々に言い切って厨房を出て行った。後に残されたフィデルは苦い顔だ。しばし、大盛りの深皿を睨んでいたが、親の仇のように豪快に頬張った。


「少しは元気がでたかな? 

 ヘルマンさんが心配してたから、助かったよ。喝を入れてやってくれって言われたけど、僕じゃどうすればいいか思いつかなかったから」

「別に元気づけようとしたわけじゃないわ」

 テオドラが肩をすくめると、心配して話を聞いたマルコスがほっと息をつく。そして、いささかバツが悪そうな顔になった。


「テオドラもフィデルもすごいよね。エミリアナを心配して会える手段を目標にして頑張ってる。

 僕はあれこれ思い悩むだけで、何も行動できなかったよ」

「・・・プリンはエミリアナのアイディアだもの。他の味も美味しいとか言ってたから、参考にして挑戦してみたら上手くいっただけ。

 領主邸に勤めるのは本当はお養父さんのはずだったし。お養父さんが腰痛で領都まで行くのは辛いって言うから、代わりにあたしが行くことになったのよ。

 別にエミリアナのためだけじゃないからね!」

 テオドラがツンとして減らず口を叩いた。素直じゃないなあ、とマルコスは苦笑する。


 エミリアナは領都の孤児院に転院したことになっている。領主の養子になったエミリアナと孤児院にいたエミリアナが同一人物だと知っているのはフィデルたちだけだ。ベルナルダやバネッサたちにも教えていない。

 院長はきっと事情を知っているものだとは思うが、領主の味方だ。信用はできないと思っている。

 エミリアナとは別れの挨拶さえできないで会えなくなってしまったのだ。突然のことで気持ちの整理がつけられなかった。

 テオドラとフィデルはそれぞれ得意分野からエミリアナとの伝手を得ようとした。何もしなかった自分とは大違いだと、マルコスは自嘲気味にため息をつく。


「別にそんな大層なことではないわよ。

 もともとフィデルは冒険者として身を立てるつもりだったし、あたしも当たりスキルの調理を得たから、料理人を目指すことにしただけ。大成のついでに、()()()()貴族令嬢になったエミリアナと会えるかも?ってだけよ。

 あんたはあんたで、念願の門番の道を目指しているんだから、何も恥じることはないでしょ?」

 テオドラは間延びした馬鹿っぽい喋り方をしなくなった。領主にお目にかかれる料理人を目指した結果だ。

 孤児院で学んでいる使用人用の礼儀作法にも熱心に取り組んでいた。きっと、領主邸に勤めることを想定して努力していたのだろう。

 マルコスは自分だけ取り残されたようで少しだけ寂しく思ったが、二人に比べるとエミリアナへの友情はそんなに厚くはない。仕方のないことだった。


「・・・マルコスはダンジョン方面の門番を望んでるって聞いたわよ?」

「うん、門番の中じゃ、高給取りだからね」

「ふうん、そうなんだ?

 てっきり、冒険者の知己を増やして、親の消息を知りたいのかと思ってたわ。あんたの親って、冒険者だったかもしれないんでしょ?」

 テオドラが探るような視線を向けてきて、マルコスは言葉に詰まった。バラハの町は交通の要所で旅人が行き交う場所だが、沼地のダンジョンに挑む冒険者が集う拠点でもあるのだ。

 冒険者の親がダンジョンで亡くなって、子供だけ残されることもある。商人の情報網ではマルコスの親らしき相手は見つからなかったから、冒険者の可能性もあると警備隊の記録には残っていた。

「親の消息を知りたいっていうのも、立派な目標だと思うわよ。しょげずに頑張んなさいよ。

 まあ、あたしは親なんか、どーでもいいけどねえ」

 テオドラがひらひらと手を振って立ち去った。一人残されたマルコスは誰にも告げていない思いを見透かされて驚いていた。

いつもお読みいただきありがとうございます。

評価やブクマ、いいねなどありがたいです。誤字報告も助かります。


第二章はこれにて終了、次回からは第三章『仮婚約者のエミリアナ』になります。

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